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カメラバッグの謎3

夢から醒めた瞬間、

胸の奥にざらついた感覚が残っていた。

事故の夢。

自分ではない視点。

雨に濡れた道路に転がるカメラバッグ。

あまりにも鮮明で、

“夢だった”と割り切るには妙な現実味があった。

寝起きのぼんやりした頭のまま、

部屋の隅に置いたカメラバッグへ目を向けた。

確認しておこう。

そんな気持ちになった。

手に取ってみると、

特に変わったところはなかった。

傷も汚れもなく、

昨日と同じ、綺麗なままのバッグ。

革の匂いも、手触りも、買ったときと変わらない。

「……夢だよな」

自分に言い聞かせるように呟き、

深く考えないことにした。


その次の週末も撮影に出かけた。

天気は良く、撮影自体は順調だった。

バッグの使い勝手も良くて、

肩にかけたときのフィット感も悪くない。

むしろ前より気に入っていたくらいだ。

ただ、ふとした瞬間に、バッグの重さが微妙に変わったような気がした。

気のせいだろう。

撮影の疲れだ。

そう思いながら、その日は帰宅した。

シャワーを浴び、布団に沈み込むように眠った。


その夜も、夢を見た。

今度は病院のベッドだった。

白い天井。

消毒液の匂い。

規則的に鳴る電子音。

自分はベッドに横たわっていた。

腕には点滴。

胸には心電図のコード。

だが、やはり“自分の視点”ではなかった。

ベッド脇のテーブルに、カメラが置かれていた。

それは自分が普段使っているメーカーのものではない。

古い型の、見覚えのないカメラ。

そしてその横に、あのカメラバッグが鎮座していた。

まるで、持ち主の枕元を見守るように。

夢の中の空気は妙に静かで、

誰もいない病室の気配だけが濃かった。

そのバッグは、まるで“そこにあることが当然”というように、病室の空気に馴染んでいた。

そこで目が覚めた。

胸の奥に、説明のつかないざわつきが残ったままだった。


夢の内容ははっきり覚えている。

事故の夢とは違い、

今回は“死”の気配はなかったが、

妙に現実味があった。

そして何より、

なぜ、あのバッグが夢に出てくるのか。

気になって、

布団から起き上がるとすぐにスマホを手に取った。

出品者のページを開き、メッセージ欄を開く。

クレームでも返品でもない。

ただ、少し気になることがあってそんな前置きを添えて、丁寧な文面で連絡を送った。


「購入したバッグについて、

 特に問題はないのですが、

 少しお聞きしたいことがありまして……」


送信ボタンを押したあと、

しばらく画面を見つめていた。

既読はつかない。

まあ、朝早いし、

すぐに返事が来るとは思っていなかった。

それでも、

胸のざわつきは消えなかった。

あの夢の中で、

バッグはまるで“そこにあるのが当然”というように、

病室の空気に溶け込んでいた。

あれは本当に、

ただの夢だったのだろうか。

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