カメラバッグの謎2
小物ポケットの奥に指を入れると、
指先に小さな袋の感触が触れた。
取り出してみると、それは乾燥剤だった。
USEDのはずなのに、
まるで新品のバッグに入っているような、
真っ白で、しっとり感のない乾燥剤。
「……入れてくれてたのか?」
そんな程度にしか思わなかった。
丁寧な人なんだな、くらいの感覚で、
特に気に留めることもなくポケットに戻した。
その週末、
さっそくこのカメラバッグを抱えて撮影に出かけた。
革の匂いがまだ少し残っていて、
肩にかけたときのフィット感も良い。
買ってよかったな、と何度も思った。
撮影を終えて帰宅する頃には、
身体中が心地よい疲労で重くなっていた。
シャワーを浴び、
布団に倒れ込むように眠った。
その夜、妙に鮮明な夢を見た。
夢のはずなのに、
なぜか“自分の視点”ではない気がした。
見ているのは自分なのに、
自分の目で見ていないような、
どこか少しズレた感覚。
薄暗い道路。
雨が降っている。
アスファルトに落ちる雨粒の音が、妙に鮮明だった。
視界の端に、
自分が立っているのが見えた。
次の瞬間、
ヘッドライトの光が強くなり、
車が突っ込んでくる。
衝撃の瞬間はなかった。
ただ、
自分の身体が宙に浮き、
地面に叩きつけられる様子を、
“誰かの目”で見ていた。
倒れた自分のすぐそばに、
カメラバッグが転がっていた
雨に濡れながら、ファスナーが半分開いたまま、道路の上でじっとしている。
夢の中で一番印象に残ったのは、事故そのものではなく、そのカメラバッグの存在だった。
まるでそこにあるのが当たり前であるかのように…
夢から醒めて、
なんとなく胸の奥がざわつくのを感じた。
あの事故の夢。
自分ではない視点。
そして、雨に濡れたカメラバッグ。
気味が悪いというより、
妙に“現実味”があった。
寝起きのぼんやりした頭のまま、
部屋の隅に置いたカメラバッグへ目を向けた。
確認しておこう。
そんな気持ちになった。
手に取ってみると、特に傷があるようには見えなかった。
昨日と同じ、綺麗なままのバッグ。
革の匂いも、 手触りも、買ったときと変わらない。
夢は夢だ。
そう思おうとしたが、胸の奥のざわつきは消えなかった。
改めてじっくり見ていると、
ふと疑問が浮かんだ。
「……なんで、あの値段だったんだ?」
ほぼ新品で、見た目も良くて、機能性も十分。
中古市場の相場を知っている自分からすると、
あの値段はどう考えても安すぎた。
昨日は“掘り出し物だ”と喜んでいたが、
今思えば、あの女性は妙にあっさりと値下げに応じていた気がする。
雨の中、傘をさして待っていたあの姿も、どこか急いでいるように見えた。
まるで…
早く手放したかった
そんな風にも思えてきた。
胸のざわつきが、少しだけ強くなった。




