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懐中時計の記憶12

慌てて戻ってきた店員は、古びた木枠の写真立てを両手で抱えるようにして差し出した。

ガラスは少し曇り、木枠の角は擦り減り、長い年月を経たものだと一目で分かる。

オーナーは静かにそれを受け取ると、

写真立てをこちらへ向けた。

「この男性に……似ていますか?」

写真の中の老人は、

白髪で、細い目尻に深い皺が刻まれ、

柔らかい笑みを浮かべていた。

間違いない。

胸の奥が、ひゅっと縮む。


「……その人だと思います」


自分の声が、わずかに震えていた。

オーナーはその返答を聞くと、

ほんの一瞬だけ目を閉じ、

深く息を吸った。

そして、写真立ての裏側にそっと指をかけ、

写真を丁寧に抜き取った。

裏面には、

古いインクで書かれた文字があった。

オーナーはそれを懐かしむように、

ゆっくりと目で追った。

その表情は、

悲しみとも、安堵ともつかない。

ただ、長い時間を越えて届いた何かを

受け止めているようだった。

やがて、オーナーは写真の裏をこちらに向けた。

「……ご覧になりますか」

差し出された裏面には、

震えるような筆跡でこう書かれていた。


もし懐中時計を持ってくる若者がいれば、

手入れの仕方や扱い方を丁寧に教えてやってくれ。

難しそうなら……お前が引き取ってくれ。


その言葉は、

まるで未来を知っていたかのように、

“今この瞬間”を指していた。

写真の裏に残された文字は、

ただの遺言ではなかった。

――予言のようだった。

店内の空気が、

さらに深く沈んでいく。

オーナーは写真を胸元に戻し、

静かに息をついた。

そして、少し声を落として付け加えた。

「……これは、先代が亡くなる一月前に撮った写真なんです。

 裏の文字も、その時に書き残されたものです」

その言葉が落ちた瞬間、

背筋に冷たいものが走った。

一月前…

その頃には、

俺はまだこの懐中時計の存在すら知らなかった。

なのに、まるで、 俺がここに来ることを知っていたかのように。

オーナーは写真立てをそっと置き、

深く沈むような声で続けようとしていた。

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