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懐中時計の記憶11

少し迷った。

だが…こんな曰くのある懐中時計のことだ。

隠しても仕方がない。

むしろ、言わなければいけない気がした。

俺は、昨日見た夢の内容を正直に話し始めた。

「……白髪で、細い目尻に深い皺があって。

 優しい印象の老人が夢に出てきたんです」

言葉にすると、あの老人の表情が鮮明に蘇る。

柔らかい笑み。

静かな声。

そして、あの言葉。


「その人が……

 “懐中時計を大切にしてやってください”って」


オーナーは聞いている間、

まるで呼吸すら忘れたように動かなかった。

目を伏せ、 時計に触れた指先をわずかに震わせ、

そして…

深く沈むように黙り込んだ。

店内の空気が、さらに重くなる。

しばらくして、

オーナーはゆっくりと顔を上げた。

その表情は、

驚きとも、恐れともつかない。

ただ、何かを確かめるような、

そんな静かな緊張が宿っていた。

「……もう一度、確認させてください」

声は低く、慎重だった。

「あなたがその骨董品屋に行かれたのは……昨日、ですよね」

その問いには、

“昨日であるはずがない”

という含みがあった。

俺は喉がひりつくのを感じながら答えた。

「はい。昨日です。

 今日も……その店主さんに、こちらを紹介していただきました」

言った瞬間、

オーナーの表情がわずかに揺れた。

驚きとも、困惑ともつかない。

ただ、あり得ないことを聞いた

という反応だけが、はっきりと読み取れた。

店員も、横で息を呑んでいる。

時計屋の静けさが、

まるで別の世界に足を踏み入れたように変わっていた。

オーナーはしばらく黙ったまま、

懐中時計と俺の顔を交互に見つめていたが

やがて、決意したように小さく息を吸った。

「……少し、お待ちいただけますか」

その声は、先ほどよりもさらに慎重で、

どこか“覚悟”のようなものが滲んでいた。

オーナーは店員の方へ視線を向ける。

「すまない。

 奥の机の上に、写真立てがあったはずだ。

 それを持ってきてくれ」

店員は一瞬だけ目を見開き、

何かを察したように小さく頷いた。

「……はい」

そして、足早に奥へ消えていった。

店内には、

時計の針の音だけが静かに響いていた。

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