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懐中時計の記憶4

「……聞きたいです」

喉がひとりでに鳴った。

ゴクリ、と音がして、店内の静けさに吸い込まれていく。

自分でも、なぜ聞こうと思ったのか分からない。

ただ、聞かないといけない気がした。

店主はゆっくりと頷いた。

その仕草は柔らかいのに、なぜか背中がひやりとした。

「こちらの懐中時計はですね……先代の店主が、大切に使っていた品になります」

声は穏やかで、丁寧で、優しい。

けれど、その“先代”という言葉の響きが妙に重く感じられた。

店主は懐中時計をそっと指先で撫でた。

その指の動きが、まるで“人の肩に触れる”ような優しさで、見ているだけで胸の奥がざわつく。

「戦後すぐの頃に、無理をして購入したそうです。

 当時は、こういう時計は高価でしたからね。

 でも……どうしても欲しかったらしくて」

店主は微笑む。

その笑顔は柔らかいのに、どこか“奥が見えない”。


「先代は、本当に丁寧に使っていましたよ。

 毎朝、決まった時間にネジを巻いて……

 夜になると、必ず布で拭いて……

 まるで、家族のように扱っていたそうです」


その語り口は優しい。

けれど、言葉の端々に“執着”のようなものが滲む。

「でも、時代は変わりました。

 スマホがありますし、腕時計だって安くて正確なものが増えました。

 ……なかなか、使う人も減りました」

店主はそこで一度、言葉を切った。

ほんの一瞬だけ、目の奥が沈む。

「先代も……最後のほうは、あまり使わなくなってしまって」

“最後のほう”

その言い方が妙に引っかかった。

「どうして手放したんですか?」

気づけば、そんなことを聞いていた。

聞くつもりはなかったのに、口が勝手に動いた。

店主は、また一瞬だけ表情を止めた。

その一瞬が、妙に長い。

そして、ゆっくりと微笑んだ。

「……さあ。どうしてでしょうね」

声は優しいのに、背中がぞくりとした。

「ただ、先代は……

 “この時計は、次の人をちゃんと選ぶ”

 そんなことを言っていました」

店主は懐中時計を見つめる。

その視線は優しいのに、どこか“深すぎる”。


「だから、あなたが手に取ったとき……

 ああ、選ばれたんだな、と思いましたよ」


店内の空気が、すっと冷えた気がした。

懐中時計が、手の中でわずかに重くなる。

まるで、本当に“選ばれた”かのように

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