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霊を視る

 気づけば視えていたもの——霊と呼ばれる存在。


 それでも、物心ついた時には視えていなかった気がする。


 いつから視えるようになったのか、正確には思い出せない。ただ、小学校に上がった頃には確かに視えていた。


 霊に対する世間の関心は高い。


 テレビ特番が組まれるほどで、怖いもの見たさという心理が働くのだろう。


 テレビではかなり誇張されている上に「本当にそこにいる?」と感じる場合もあった。テレビ越しだから実際のところはわからないけど。


 私にとって、義務教育の期間は過酷だった。


 ——イジメに遭ったからだ。


 担任教師はイジメを止める気もなく、むしろ教師が私を嫌っていたため、周囲の子もそれに追随した。


 小学校低学年の頃、毎日のように生傷が絶えなかった。


 砂利道や砂利の駐車場に押し倒され手を踏まれることは週に数回、階段から突き落とされたこともある。

(そういえば最近、砂利道って見ないな……)


 周囲からは「菌」扱いされ私になら、どんなことをしてもいいのだと言われていた。菌に何をしても悪くない、という認識だ。


 私は小児喘息持ちで、常に咳き込んでいたのも理由の一つと思う。体育もまともに参加できず、運動会では常にビリ。


 運動神経が優れた子供が人気を博し、クラスの中心になる——いわゆるスクールカーストで最下位に位置づけられていたのは当然だ。


 振り返れば、私は確かにイジメられやすい子供であった自覚がある。


 だが、ある時、私はえげつない仕返しをしたのだった。詳細は墓場まで持っていくつもりだが、この世の人ではない新月くんにだけは打ち明けたところ


「そりゃ、それくらいして当然だろ」


 そう言ってくれた新月くんの国では、イジメに厳罰を科す法律を制定したらしい。その話を聞いた時、私は本当に嬉しかった。


 私が今いる現世では、イジメは裁かれず、被害者が泣き寝入りするしかない理不尽が、当たり前にまかり通っている。


 私の場合、仕返しをしてからイジメは収まったが孤立は免れない。必要最低限の会話しかなく、班分けの際には「この班には来てほしくない」と言われたものだ。


 そんな中、幽霊が視える力は私にとって救いである。他人から見れば孤独でも、霊たちが話し相手になってくれたので寂しくない。


 中には「力は弱いけど、とり憑いてあげるよ」と申し出てくれる霊もいて、私と同じ班になるのを嫌がった子に憑いてもらったこともある。今では懐かしい思い出だ。


 そして何より、この力があったおかげで新月くんと出会えた。


 もし力がなければ、私は今頃生きていないだろう。


 現世に未練はなく、できれば新月くんの世界へ早くいきたいので私は長生きを望んではいない。けれど、親より先に逝くのは良くないと思う。


 我ながら案外、古臭い考えを持っているものだ。


 極少数ながら、私には友人もいる。

 親しい人の中には、私が霊を視えることを知る者もいる。


 その人から「どうやって視るの?」と尋ねられたとき、私はこう答えた。


 ラジオのチューナーを合わせる感覚に近い、と。


 私はモスキート音のような音を自ら発し、その高さや波長を調整できる。霊もまた音を出しており、双方の音が一致した時にはっきり視える。


 逆を言えば、見たくない気配がしたら、その音から離れた音域にすればいい。相手が低い音なら、私の音は高くする、といった具合に。


 ただし、自分を視せたい霊は強引に音を合わせてくることもある。それがよくない存在である場合、金縛りが起きることもあった。


 金縛りには身体由来のものと霊的なものがある。前者はノイズのような音とともに不意に動けなくなるが、後者は手足の先から徐々に寒気や痺れが這い上がって動けなくなる感覚だ。


 でも、こういったものは信じない人は信じない。


 金縛り一つとっても、身体由来にしか考えられない人がいて、そういった人たちは真実をみないまま生きてればいいだけだし。


 ……私は人間があまり好きではない。


 イジメられ、誰からも助けられなかった過去が理由だ。そんな私が、祓ったほうがいい霊に憑かれている人を助ける理由もない。私がするのは極親しい人だけを、こっそり助けるだけ。


 ともかく、私の周りや家には幽霊とは違う「普通の人には視えない存在」も住んでいて私にはとてもありがたい。この存在を何と呼べばいいのかな。本によっては隣人と称されている場合も見かけたけど、私にはピンとこない。


 毎夜、私の部屋に来てくれる新月くんが、今日は来られないという。いつもとは違う、そんな夜なので部屋にいる物怪(もののけ)や精霊に相談しながら、その名を決めよう。


 ちなみに銀さんは丁稚(でっち)なんかどうです?と勧めてきたけど、それもピンと来ないのは言うまでもない——

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