99. ザカリア伯爵領の闇 ②
少年は周りを見廻しながら「あのう、部屋で話します」と言った。
何かに怯えているようだ。
部屋に着いて、セイガは防音の結界を張った。
「これで大丈夫だよー。音が漏れることはないからさ」
「じゃあ、もう一度聞く。君の名前は?」
「キュイ」とエルのポーチにいたロンが鳴いた。
少年がびっくりしていると、ロンは人間型に変身した。
「僕は第二王子のロン。君のことは絶対守るから安心してね」
「あ、あ、」少年が急に泣き出した。そして跪いた
「お初にお目にかかります。私は現ザカリア伯爵長男サイレスの四男、ヒース・ザカリアと申します。殿下には・・・」
「うん、堅苦しい挨拶はいいよ」と言ってロンは再び変身した。
「君は伯爵家の人間だったんだね。何があったんだ?」
少年は語り始めた。
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ヒースは次期ザカリア伯爵の四男として生まれた。母は側室だったため、別邸にて育った。
おかしくなってきたのは約2年前。そう、あの忌まわしい教会が建てられた頃からだった。
最初は小さな施術院が建てられた。痛みをなくす特効薬があるということで人気を呼び、しまいには伯爵の耳にも届いた。長年、腰痛に悩まされていた伯爵はすぐこれに飛びついた。
薬は良く効いた。痛みだけでなく気分まで良かった。伯爵は褒美として何が欲しいと聞くと、この地に聖ピウス正教の教会の建築許可だった。
伯爵は二つ返事で許可を出し、教会が建てられた。
当初、教会は施術院の後を引き継ぎもっぱら痛みを訴える患者を診ていたが、ある時から聖騎士を名のる者達で教会の周りを固めるようになった。
その頃から痛みを抑える薬という物が不足し始め街が不穏な空気に包まれた。
人々は薬を求め教会に長蛇の列を作ったが、薬は不足し値段は高騰していった。
その内、暴力が横行し兵士や騎士の間でも薬を求めていざこざが絶えなくなり、治安に目を向ける者はだれもいなくなった。
伯爵自身も薬を求め、湯水のように金を使った。その内朝から晩まで薬漬けとなり正常な判断ができなくなっていった。
春光祭に参加するため伯爵が王都に向かうとそれを見計らったように、教会から信者を集めるという名目で年若い男女が集められるようになり、行方不明者が多数でた。それにも関わらず教会は何の取り調べも受けなかった。
そんな時、ヒースの父であるサイレスが教会を糾弾すべく教会に行って捕らわれた。と同時にヒースの腹違いの兄弟も軟禁された。兵士や騎士達も薬物欲しさに教会の言いなりだったのだ。
危険を感じた母がヒースを逃し、間一髪で、捕まらずに済んだ。
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「それから僕は捕まるのを恐れ、平民を装い、隣のセンドーサ領に助けを求めに来たのです」