96. 春光祭 ⑦
「この男は・・・」
騎士達はこの男を見て絶句している。
「この男が誰か知っているのですか?」アレクは不思議そうに尋ねた。
「王城警備隊の隊長をしていた者です。まさか密輸グループに加わっているとは」
「恐らくアヘンの弊害でしょう。この者が中毒者の場合、アヘンを手に入れる為ならばどんなことでもする可能性があります」
「昨日の警備隊に続いて、今度は王城警備隊とは。今一度、軍部を見直す必要がありますね」
「アヘンは鎮痛効果がありますから、怪我の多い軍人に蔓延しやすいのかもしれません」
「アレク、ちょっと来て」荷馬車を嗅ぎ回っていたセイガが何か見つけたようだ。
急いで行ってみると、荷馬車に積んであった大きな箱を指さしている。
「壊さないようにそっと開けてくれる?」
「わかった」
箱の中には、大きな卵が入っていた。思わず騎士達を呼び集める。
「な、なんでこれが・・・おい、どういうことだ」
「どうしたのですか?」
「これは古代竜の卵で王城で厳重に管理をしていたものです。古代竜はめったに卵を産まないため産んだだ卵は孵化するまで我々が見守っているのです。すぐ陛下に報告しなければ」
「その必要はない」
国王が近侍とともに現れた。
「オズマ、いったいどういうことだ」警備隊長を睨んで声をかける。
「・・・・・」
「王城警備隊を急ぎ招集しろ。あとは王城に帰ってからだ」
競技場の方で一際高い歓声が響いた。どうやら力比べの優勝者が決定したらしい。
国王は会場に戻り、優勝者を賞賛し、栄誉を与えた。そして
「誉れある竜人国の民よ。我が国は未曾有の危機にある。聖ピウス皇国の謀略により、大切な古代竜の卵が盗まれようとした。我が国はこのことを絶対に許さん。聖ピウス皇国との国境は閉鎖した。怪しい薬には手をださぬよう、しかと言い渡す。またそのような者を見かけた時は速やかに届け出るよう心しておくよう」
と国民に対して演説をして、壇上を降りた。
先程まで歓声に包まれていた会場は、ザワザワとしはじめた。
「残念だが春光祭は今日で終わりにする」
壇上を降りた後、国王は宣言した。
王城前の広場には集められた警備兵が並んでいた。皆、緊張した面持ちで国王の到着をまっていた。
国王が到着すると、騎士団長が前に出て
「皆に残念な知らせがある。本日、王城警備隊長のオズマが古代竜の卵を盗みだしたことが発覚した。これから諸君の身辺調査を行う。身辺が明らかになるまで王城外への外出を禁じる。以上だ」
何人かが顔を青ざめさせた。と、急に竜に変身して逃げだそうとした。途端に騎士達がその者達を押さえつける。
アヘンの弊害がここまで及んでいたことに国王は苦虫をかみつぶした顔をした。