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94. 春光祭 ⑤

「セイガ、あのキセルを吸っている貴族の側に行って匂いを確認してきてくれるか?」


「うん、わかった。ちょっと待ってて」


暫くすると戻ってきて

「間違いないよ。あの甘い匂い」


「ロン、国王に念話で話せるか?」

「キュイ」


遠目に見ても国王が反応したのがわかった。



競技場では力比べが大分進んでいた。これから残った者同士でトーナメントになるようだ。

残った者は16名。2人づつ名前が呼ばれる。


「赤色の殺戮者、ゴメス!対しまして黒の屠殺人、ゲルド!両名前へ」

二人が前へ出て握手する。


「それでは、始め!」


二人共いきなり竜体に変わった。赤竜と黒竜の一騎打ちだ。

最初、突っ込んだ赤竜が優位にたっていたが黒竜が踏ん張り赤竜をぶん投げた。


「勝負あり!黒の屠殺人ゲルド!」


ものすごい迫力だ。エルは目を見開いたまま固まっている。観客は大喜びだ。


「次の勝負は、青い稲妻・・・」



「おい、あっちで動きがあるぞ」

アレクは国王の横にいる騎士達の動きを追っている。どうやらキセルを咥えていた貴族を拘束したらしい。

「エル、俺達も行こう」


興奮している観客達の間をすり抜け行こうとした。

と、エルの首筋にナイフが当てられた。

「動くな」黒いフードの男がささやく。


アレクが振り返る。

「何をする」


「こいつはお前の連れか?こいつは悪魔だ。黒い髪に赤い目、司教様がおっしゃった容姿をしている。教会に連れて行く」

男がぎらぎらした目で答える。


「何を馬鹿なことを言っているんだ」


「こいつを連れて行けば、俺は貴族になれる。アヘンも金も望むがままさ」


「キュイ」ロンがいきなり飛び出し男の腕を噛んだ。男が怯む。


「バインド!」光魔法を放ち、男を拘束する。


「エル、大丈夫か?」


「ああ、大丈夫。それよりも、ロンありがとう」

「キュイ」ロンはどこか得意げだ。


「お前は聖ピウス皇国の者か?」

「・・・・」

「よし、こいつも連れて行こう」


人混みをかき分けて動きのあった騎士達の方へ向かった。



騎士達が集まる場所へ男を引き立てて連れて行った。


「アレキサンダー王子、その者は」

「ああ、エルを悪魔だといい教会へ連れて行こうとした」

「教会・・・」


とその時突然、男が苦しみだした。

「あああ、うう」

「くそ、歯に仕込んだ毒を飲んだな」「ヒール!」


男はグッタリしていたが一命は取り留めたようだった。


「まだこの会場に皇国の手の者が紛れ込んでいるようだ。俺達はそれを探る。君らはこの者の尋問をお願いする」


「わかりました」













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