93. 春光祭 ④
その後はなにも起こらず宮殿に戻ったアレク達だった。
(勿論セイガのお腹は、はち切れそうだが)
その後、侍女に連れられ談話室」に向かう。
「アレキサンダー王子、エルさん、セイガ様それとロン、ご苦労さまでした」
いきなり国王が立ち上がってアレクの手を握ってきた。
「騎士のタンガから報告を受けています。密売人から民を守ってくれて感謝します。それよりも、警備隊長がそれに関わっていたとは」
「そうなんだ。僕を屋台から盗んだ泥棒呼ばわりされて追いかけ回された」
セイガはちょっとむくれて抗議した。
「それは大変申し訳ありませんでした」
「まだ、アヘンの恐ろしさを知らないからでしょう。民だけでなく兵士や騎士にも徹底して怖さを知らせる方が良いでしょう」
「分かりました。騎士や兵士には徹底した再教育をいたします」
「ところで明日は2日目。私も競技場に向かいますのでご一緒していただけますか」
「競技場?」
「はい。そこで力比べなどを行います」
「それは、楽しみですね。是非、ご一緒させてください」
王都の側にあった草原が簡易競技場に様変わりしていた。周辺は異様な熱気に包まれている。
国王到着のラッパが吹き鳴らされ空から次々と大きな竜が舞い降りてくる。そして一斉に人型をとった。
ウォーという歓声のなか国王が右手を挙げる。すると歓声がピタリと止んだ。
「これから競技を始める。まずは飛行競技だ。代表者5名こちらへ」
5名が前へ進み出る。
「竜王の谷へ行き白旗を持ってくるように。一番先に着いた者に栄誉と報償を与える」
「はっ」5人は一斉に変身し竜王の谷めがけて飛んでいった。
国王達は貴賓席に移り、相撲いわゆる力比べが始まった。歓声がすごい。
俺達は籠に乗せてもらい競技場の近くで降ろして貰った。競技場の外はいつのまにか沢山の屋台が出来ている。セイガは尻尾を振りながら屋台を見渡していた。
「んー、あれは昨日食べたから、こっちがいいか」なにやらブツブツ呟いている。
「おい、セイガ、置いていくぞ」
「あー、待ってよ」
セイガの言葉を無視して競技場に入った。
正面に国王がいる貴賓席が見えた。その近くの席は近習とか貴族の席だろう。
その貴族達の中に気になる者が何人かいた。
キセルを咥えているのだ。