91. 春光祭 ②
「セイガ、近くに居る警備の兵士を呼んできてくれないか」
「わかった」
セイガは警備の兵士を呼びに一目散に走って行った。
小屋の辺りに漂うかすかに香る甘い匂いには記憶があった。アヘンだ。
小屋の様子を窺うと寝ている客達の側を黒いフードをかぶった数名の男達がいる。他にも居ないかと周囲を見廻すと1人の男と目が合った。男は慌てて逃げようとした。
「バインド」
光の拘束具で捕えておく。セイガが中々戻って来ない。
セイガは巡回中の警備の兵士に怪しい人達がいると知らせたが、
「それがどうした」と全く取り合ってくれないばかりかセイガを捕まえようとした。
恐らくセイガが余りにも小さいので見くびっていたのだろう。そこに警備の隊長らしき人物が現れた。
「どうした」
「はっ、どうやらこいつが俺達の秘密を感づいたようなので」
「ふん、たかが子犬1匹に何をしている。早く始末しろ」
隊長は辺りを窺いながらそう言った。
警備隊員がセイガを追いかけ回している際、セイガはロンに念話を送り警備隊がアヘンの密売人とグル出あることを知らせ、城の騎士に連絡するよう伝えた。
「キュイ」突然、声をあげたロンにエルがびっくりしていると、何人かのロンの護衛騎士が集まってきた。
「キュイ、キュキュイ、キュイ」
「ロン様、本当ですか。直ぐに城の騎士達を呼びます」と言って笛を吹いた。
すると大きな竜が何匹も城から飛び出しこちらに向かってくる。と突然、見えなくなった。人型に変身したのだ。突然、1人がセイガの前に現れる。
「何をしている」
大柄な騎士は警備兵を睨みながらそういった。
「これはタンガ様ではございませんか」警備隊長が笑みを浮かべてそう言った。
「ん、お前は第二警備隊長のタブロではないか。何があった?」
「ええ、この子犬が屋台の物を盗んだと通報がありまして」
セイガはいきなり変身して人型を取った。
「違います。こいつらアヘンの密売人とグルです」
すると大柄な騎士がいつの間にか何人もやってきて警備兵を拘束し始めた。
「な、何を・・」
「知らないのか。この方は神狼のセイガ様だ。連れて行け」
「それとアレクがアヘン小屋を見張っています。僕に着いてきて」とセイガが子オオカミの姿に変身して走りだした。その後を大柄な騎士がついて行く。
一方、アレクだがセイガを待っていたが中々戻って来ない。そうこうするうちにローブの男達が水晶のような石を取りだし、何かしようとした。
「しょうがない」アレクは呟くと小屋に単身で踏み込んでいった。