9.ペンダントの記憶 ①
それは太古の昔、人間という枠からはずれ、新たな種族に生まれ変わった女性の記憶。
彼女はごく普通の少女として過ごしていたが、ある時幼なじみが魔獣に襲われた際、突如魔法の才に目覚めそこらの魔獣を全て駆逐してしまった。幼なじみもその家族も感謝はしてくれた。しかしその時から薄気味悪いものを見るように彼女を見るようになった。何故ならその頃の人間には魔法など使える者がいなかったからだ。
暫くすると、村中の者が彼女を排斥しだした。彼女を恐れたのだ。
彼女は生まれ育った村を出て旅に出た。その当時の女性の一人旅など「死」を意味していた。だが彼女には魔法があった。いろいろな国や街を巡った。人間には受け入れて貰えず、かといってエルフやドワーフ、獣人達にも見た目ではじかれた。
結局、彼女は深い森の奥の洞窟に移り住み一人で暮らすようになった。それからずぶんと月日が流れていった。
ある日近くの小川に水を汲みに行くと、人間の男が倒れていた。彼女は男を洞窟に連れ帰り看病した。診たところ大した傷もなく魔獣に襲われたようではなかった。単に気を失っただけのようだった。
眠っている彼をみるに平民ではなさそうだった。彼女が見たことも無いような服装やアクセサリーをしていた。それにその腕輪のようなアクセサリーからはチッチッチッチと妙な音が聞こえ中の針が生き物のように円を描いてうごいていた。思わずその腕輪に見入っていると、「うう~ん」といって男が目をさました。
「あれ、俺どうしちゃったのかな」
彼女はあとずさった。
「君、誰? 外国人かな。言葉わかる?」
彼女はこくりと頷いた。
「あ~良かったあ。ここはどこ? 君一人なのかな」
「ここがどこだかはわからない。エルフの森の先にある深い森の中。あなたはこの近くの小川のそばで倒れていたの。そのままにしておくと魔獣の餌になっちゃうから私が住んでる洞窟まで運んだの」
「エルフ!?あちゃ~、失敗しちゃった。過去に戻るつもりが異世界に来ちまったか~」
「???」
「取り敢えず、助けてくれてどうもありがとう。僕はシン・サクライ。こことは別の世界からやって来ました。君の名前、教えてくれる?」