89. 竜王の地下宮殿 ②
「奴らは獣人の血が魔石を押さえる効果があることを知ったのです。だが、実際は血ではなく魔力が必要なのですが。それによりどれだけの獣人の命が奪われたのか考えるだけ恐ろしいことです」
「そして次に奴らが狙ってくるのは、魔力も桁違いに多い竜人に違いありません。実際、何人もの民が行方不明になっています。お婆様が結界を張れば被害を少なくできるかもしれないが」
「うん、わかったよ。僕らがなんとかするさ。獣人の守り神でもあるしね」
セイガが吠えた。
「すみません。自分の感情が抑えきれなくて。ではこの先に進みます」
大鍾乳洞を抜けしばらく行くと、滝がみえた。正確には滝の裏側だ。
不思議なことに滝の裏側は一面の花畑になっていた。柔らかな陽射しが洞内に降り注いでいる。
「ここは薬草園です。滝の裏側なので水が潤沢に行き渡ります。また地表からも陽があたるので薬草の生育にはもってっこいの場所になっています。では、この先に階段があるので行きましょう」
花畑の先に螺旋階段があった。王太子はどんどん登っていく。
階段を上りきるとそこは見晴台になっていた。目の下に峡谷が見える。峡谷の先は台地になっていて遠くに森があり、その先に1本の巨木がかすかに見える。
「向こう側はエルフの国になります。そしてかすかに見える巨木が世界樹です。世界樹もまたこの世界を支える大切な存在。損なうわけには参りません」
「そして、反対側、竜人国側には森があります。ただし、魔石をキチンと管理しているため魔獣はおりません。そのかわり、エルフの国が近いせいか妖精がよく現れます」
すると小さな光が瞬きながらエル達の周りをまわり、いつのまにかエルのポーチに収まっていたロンの頭の上に乗った。
「キュイ」
ロンが一声鳴くとその光は瞬きながら離れていった。
「ロン、妖精が挨拶に来たんだよ」
王太子は微笑みながらそう言った。
「ロン、この美しい世界を忘れないで。そしてアレキサンダー王子やエルさん、セイガ様の言うことをよく聞いて闇ギルドや聖ピウス皇国からこの国を守って欲しい」
「キュイ!」
「じゃあ、戻りましょう」
アレクは何だか悲しくなった。何故、俺達人間はこの平和で美しい世界を支えている者達を『悪』と決めつけ排除しようとするのか。前世の地球での過ちをここでも犯そうというのか。
絶対、阻止しなければならない。