87. 竜王の地下宮殿 ①
重苦しい雰囲気の中、突然、甲高い声が遮る。
「キュイ!」
「おお、おぬしは、どうした?」
「キュイ、キュイ」
竜王は「何?そんなことぞうさもないこと。ここへ来い」と杖で場所を指し示した。
途端に、ロンの姿が光り輝き小さな男の子が現れた。
「ロン!」
「エル!しゃべれるようになったよ」
「ロン、元の姿には戻れるのか?」
「もちろん」
白い光がロンの姿を包み込み元の姿に戻っていた。
「ところでアレキサンダー王子。この地下宮殿を見学してみませんか?」
ヴァルター王太子がそんな提案をしてきた。
「もし、可能なら、是非」
ロンがまた変身して「それ、僕もみてみたい!」と歓声を上げた。
「ね、おばあ様、いいよね?」
「しょうがないね。行っといで」
俺達は王太子の後をついて行った。談話室をでると、そこは大きな洞穴だった。階段があり下の方へとつづいている。まるでダンジョンのようだ。だが階段を降りきった時に出てきたのは感嘆だった。
そこは途方もなく大きな鍾乳洞だった。
自然発光している石、魔石が壁をうめつくしている。そしてむき出しになった宝石や輝石がその光を反射し、色とりどりの色彩を醸していた。
頭上から垂れている石はまるでシャンデリアのようだ。
「どうです。見事でしょう?」
「ああ、こんな場所、見たのは初めてだ」
「これをあなた方に見せたのは、聖ピウス皇国から、ここを守って欲しいからです」
ヴァルター王太子は辺りを見渡しながら言った。
「魔石は本来、地中にあって長い年月魔力を取り込み魔獣の核となって表に出てくる物です。それを掘り起こし魔力の入っていない状態で野ざらしにすれば、空気中の魔素を取り込み始め、生態系、特に植物に悪影響が出る。だから常に魔力の供給者を魔石の側に置いておく必要がある」
「実はここの魔石に魔力を供給しているのはお婆様や現存している古代竜達なのです。普段、この国では次期国王である僕が、ここを守っていますが、何も知らない人間達が魔石欲しさにここを襲ったら、奪った魔石を魔力を入れずに放置したらと思うといたたまれません」
「ヴァルター王太子。じゃあ、ユークリッド王国が滅んだのは・・・」
エルが声を上げた。
「恐らく、魔力の供給者がいなくなった為だろう。そのため、魔素の濃度が変化し飢饉が起きた」
「でも、今現在、飢饉が起こっている様子はないのですが」
「それは奴らが、魔石に魔力のある獣人らの血を吸わせるという暴挙に出ているからだ」