87. 竜王の思惑 ②
「カサンドラ様、貴女は2000年生きた叡智をお持ちだ。その2000年間でこの世界ではない者の存在を感じたことはありますか?」
「わしが会ったことのあるこの世界ではない者といえばシン・サクライだけじゃな。それと・・・、おお、そうじゃ、ヨルド川の向こうにケン・サクライという者がおったが、結界が張られた後なので会ったことはない。そこの神狼の方が詳しいじゃろ」
「実は、私はそのケン・サクライの生まれ変わりといわれておりました」
「ほう」
「ただ、その自覚も記憶も無いのですが。私には前世の記憶があります。その世界で私は24才でしたが、事故に遭い、気付いたらこの世界の10才の王子の体の中に入っておりました」
エルが息を飲んだように俺を見た。
「もし、俺と同じように他の世界からこの世界に来た人がいるならば・・・」
「私が前にいた世界で、時代的にはずっと昔になりますが、宗教という名のもとで随分と悪辣なことをしていた人々がいた。その人々がこの世界にたどりついていたならば、ドラゴンや魔法使いなどは悪と見なすことはわかります」
「さらに彼らは肌の色だけで人間をも虐げていたのだから、獣人などは許せないでしょう」
「私は、彼らがこの世界に来たのではと疑っています」
竜王は黙って俺を見た。
「その者達自身が、自分達がこの世界での『悪』と自覚していないということか」
「恐らく、彼らのいうこの世界の間違いを自分達で正そうとしているのではと」
「厄介じゃな。取り敢えず情報が不足しておる。闇ギルドにしろ聖ピウス皇国にしろこの国には害にしかならん。ジークフリト、彼の国との門を閉ざせ。わしは国境線沿いに結界を張る。そして、アレキサンダー王子、そなた達に頼みがある」
そういって竜王は白く輝く石を取り出した。
「これは連絡用の石だ。これに魔力を通せばわしに繋がる。そなた達はこれから今は亡きユークリッド皇国へ向かうのだろう?ここからユークリッド皇国へ向かうには獣人達の国を通り抜けなければ行けない。獣人達がどのようになっているか知らせてほしい」
「承知いたしました」
俺は素直にその石を受け取った。
「麻薬と魔石か。本当に厄介じゃな」
皆、重苦しい思いで竜王の呟きを聞いていた。