86. 竜王の思惑 ①
「まあ、立ち話もなんだ・・・私の住処に着ておくれ」
そういうと竜王は杖を振り上げた。そこには巨大な魔方陣が浮かび上がる。
一瞬にして巨大な空間へと移動した。
奥に赤々と暖炉の火が燃えていて、居心地の良さそうなソファーが並んでいる。
そこには角の生えた侍従と侍女が並んでいて彼らを迎えた。
「どうぞ」
出されたお茶はハーブティーだった。
「さて、ジークフリート、何か話があるんじゃなかったかね?」
「実は・・」国王はロンのこと、アレク達に聞いた話を詳細に伝えた。
その話を聞くと竜王の金色の目が光った。
「聖ピウス皇国の奴らはこの世界の秩序を根こそぎ変えようとしているのかい?」
皆は押し黙った。
「私は2000年生きているがそんな馬鹿なことを考えるのはいつも人間だ。奴らは、他の種族を滅ぼし、貶め、それでは飽き足らず人間同士でも互いに殺し合い、害する。まったく救いようがない連中だ」
「以前にも似たようなことがあった。ユークリッド王国の前の王国、ラルフ王国だったか。魔石を利用して世界征服を企んだ者が居たと聞く。自身の民を何万と犠牲にしてな。結局、反乱が起き滅亡したがな。だが、今回はもっと悪質だ。アヘンやマタタビといった精神を崩壊させ依存性のある薬物を利用し、さらに魔石に魔力のある者の血を吸わせるなどと外道がすることだ」
「あの、少し思ったのですが・・・」
とエルが話に割り込む。おもむろに赤い宝玉のペンダントを胸元から取り出し
「このペンダントにはユイとシン・サクライの記憶が入っています」
「シン・サクライ!」
「それは私にしか見ることが出来ないのですが。その記憶では魔石の採掘を始めたのはラルフ国王イヴァンの母エリザベスが正妻でリリアナ前王妃にあるエルフの血を憎みエルフに対抗するには魔石を利用することだとどこかで聞きつけたと」
「お前さん、シン・サクライと言ったね」
「シン・サクライをご存じなんですか」
「ああ、『黄金の道』を作ったのもヨルド川のこちら側に結界を張ったのも全てシン・サクライのおかげさ。お陰で、こちら側は強欲な人間どもに侵略されずに平和に過ごしてきた」
「それで思ったのですが、その王母エリザベスに魔石のことを伝えたのは誰だったんだろうって思って」
「ふ~む、聖ピウス皇国の件と500年前の事件と何らかの繋がりがあると」
「そこに流れる共通の悪意というか意思を感じるのです」