85. 竜王の谷
翌日、まだ朝早い内から俺達は籠に乗り、竜王の谷へと向かった。
籠から見る景色は前回と同様、広大な麦畑や牧草地が点在してそれを縫うように街道があり、川に沿って村や街があった。
暫く進むと、目の前に巨大な渓谷が見えてきた。多分、あれが『竜王の谷』と呼ばれているものだろう。
その雄大さに息をのむ。
「そろそろ到着します」と並んで飛んでいた竜が高度を下げだした。見ると巨大な滝の横に平坦な土地がある。竜の一行は次々に舞い降り兵士に姿を変えた。
最後に国王と王妃が舞い降りて来た。竜の姿から人型へ変化すると
「この先に竜王の住まいがあります。先触れを出しますので少しお待ちください」と言って兵士を先に行かせた。
暫くすると、少年が走ってきた。
「父上、母上、どうしたのですか?」
「ああ、ヴァルター、挨拶しなさい。こちらは末っ子を助けてくれたアレキサンダー王子とエルさん、セイガ様だ」
「え、末っ子って。まさか見つかったのですか?」
「この方達が連れてきてくれたんだ。今は『ロン』と呼んでいる」
「キュイ」
「お前・・・」
「失礼しました。私はこの国の王太子ヴァルター・ドラギアナと申します。弟、「ロン」を助けて頂きありがとうございました」
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。私はシュトラウス王国第二王子アレキサンダー・ケン・シュトラウスと申す者。こちらが弟子のエル。そして契約獣のセイガです」
「今日は報告があってここに来た。竜王様はご在宅か」
「はい。何かを感じられたようでそこまで出ておいでです」
するとズシンという足音と共に大地が震えた。見ると、身の丈30Mはあろう巨大な竜が姿を現していた。と、一瞬で見えなくなった。
一人の老婆が杖をついてこちらに歩いてくる。だがその威圧感は半端ではなかった。
皆は一斉に老婆に跪いた。
「誰かと思えばジークフリートではないか。それにおお、戻ったのか?」
「キュイ」
「それに・・・。随分すごいお客人を連れてきたね。お客人、私は竜王をしているカサンドラだ。お客人があの子を助けてくれたのかい?」
「カサンドラ様、こちらの方々が結界の向こう側から『黄金の道』を通って助け出してくれたのです」
「結界の向こう側」
「お初にお目にかかります。シュトラウス王国第二王子アレキサンダー・ケン・シュトラウスと申します。そしてこれが弟子のエル。契約獣のセイガです」
すると彼女はセイガに向かって「お前さんのとこが代替わりしたって聞いたが本当だったんだね。懐かしい友人をまた亡くしてしまった」
「それにしても神狼を契約獣にするとは」
「いや、これは僕が望んだことなんだ。面白そうだったし」
「それにお前も望んで契約したのかい?」
「キュイ」