81. ロンの事情 ②
草原を過ぎるとまた鬱蒼とした森に入る。
しかし先程、魔の森を通った際に感じた魔獣の気配は消えていた。恐らく、竜人国が近いためであろう。
そんな森の中を抜けると突如大きな城壁が目の前に迫ってきた。
「あれが竜人国の入り口だよ」
見ると、城壁には大きな城門と小さな城門があり、小さな城門の前に審査を受ける人々の列があった。
俺達は列の後ろに並び順番を待った。
俺達の番が来ると突然「キュイ」とロンがポーチから首を出した。と思ったら、城門を守る兵士達が慌てだした。彼らは次々に竜の姿に変身し、ある方向に向かって飛び始めた。残った兵士は城門横に俺達を連れて行き、暫く待つように言った。
そうすると今度は先程より大型の竜が次々に籠を咥えて降りてきた。
「ようこそ、竜人の国へ。旅のお方。私は竜人国師団長ヨウムと申します。早速ですが、この籠にのり王宮へと向かって頂きます。馬車は後ほど部下が運ばせて頂きますので、まずは皆さんがお乗り下さい」
大型の竜が首を下げ挨拶をした。
「王宮ですか?」
「はい、国王と王妃様がお待ちです」
「えっと」
「実は一番下の王子様が事故で行方が分からなくなっておりました」といいながらロンを見る。
「ロン、お前、王族だったのか?」
「キュイ」
「と言うわけで、急いでお会いになりたいとのことです」
「わかりました。それでは参りましょう」
と言う訳で俺達は急遽、籠に乗り込み王宮へと向かった。
空から見る竜人国は美しかった。
森の間に所々見える草原に、牛や馬などが放牧され、幾本かの川が流れていた。その川岸に沿っていくつか街があり、大きな街だと城もあった。少し行くと今度は広大な麦畑があり街道がその中を貫いていく。
「うわあ、竜人国って素敵な所だね、ロン」
「キュイ」とロンは誇らしげだ。
「あ、あの大きな街が王都じゃないかな」とセイガが指し示す方を見れば、これまでとは比べられないほど大きな街が見えてきた。その中に一際おおきな建物に向かって竜達はぐんぐん高度を下げていく。
降り立った場所は王城だった。籠が到着するや否や竜達は屈強な兵士へと次々に変化し跪いた。
「ああ、私の赤ちゃん」
王妃がロンに駆け寄った。国王もその後から着いてくる。
「お初にお目に掛かる。私はこの国の王、ジークフリート・ドラギアナ、そして王妃のフランシス・ドラギアナだ」
「ご丁寧な挨拶痛み入ります。私はヨルド川の向こうにあるシュトラウス王国第二王子アレキサンダー・ケン・サクライと申す者。そしてこれがエル。私の弟子をしております。それと」
「僕は神狼のセイガ。アレキサンダー王子の契約獣だ」