80. ロンの事情 ①
『黄金の道』から外れて、俺達は竜族の国に向かう脇道に入った。
やがて馬車は鬱蒼とした森を抜け、広々とした草原にでた。
「ここで休みを取る」
アレクは言い、クロムとクロックを草原に放してやった。
「私達もお茶にしましょう」とエルはお茶の準備を始めた。
輝く太陽の下、早春の風は軽やかに草原を渡っていく。
「よいしょっと」セイガは人間型になり、渡されたカップのお茶をふうふう吹きながら飲んでいる。
「セイガ、この辺りのことが分かるか?」
「多分、竜人国の入り口だと思う」
「竜人国?」
「そう、オオカミにもオオカミ獣人がいるように、竜にも竜人がいる」
「竜人とはどういう人達だ?」
「見た目は人間と変わらない。ただ、角があったりすることもあるけどね。でも、力は圧倒的に強い。それに本当にやばくなったら、竜に変化する。但し長時間、竜の体を維持することは出来ない。だから彼らにとって竜体で生まれてくる子供は貴重なんだ。竜本体であり神、その者なんだ。『黄金の道』に現れたのは竜人に違いない。ロンの声を聞いて一旦、国に知らせに帰ったのだろう」
「キュイ」そうだと言うようにロンが頷く。
「ではロン、国に帰ってお前はどうする?」
「キュイ、キューイキュイ」
「国に帰って、これまでの成り行きを説明するって」
「キュイキュイ、キューイ、キュイ」
「それで君達と共に旅を続けることを母様に言うって」
側で見ていたエルは目を丸くして
「すごいね、セイガって。ロンの言うこと分かるんだ」
「そりゃあ、僕は神狼だからね」
「キュイ、キュキュキュイ、キュイキューイ」
「母様の所に行ったら、僕も人間の言葉がしゃべれるようになる」ってさ。
「うん、ロン、楽しみだね」
「キュイ」
「ほら、ちょっと遅いけど昼飯用意したぞ」
アレクはそれぞれの皿にスープを入れていった。
「僕、お腹がペコペコだったんだよ」
「実は、私も」
「キュイ」
「お前は違うだろ?エルに魔力を分けて貰え」
「キュイ」
穏やかな時間が流れていった。
「クロック!クロム!出発だ」
アレクが草原の彼方にいる馬たちを呼び戻す。
「竜人国へ向かって出発だ」
第四章が始まりました。ここまで読んでくれた方。ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。