8.義両親の想い
義父の日記を見つけ、見入っていたエルはノックの音で思わず顔を上げた。
「エル様、軽食をお持ちいたしました。それから先程、キール子爵家から旦那様方への弔慰と子爵が王都から戻られた際にはこちらにご訪問されたい旨を言付かってまいりました」
「マリー、ありがとう。そういえばマリーはお義父様が辺境伯家のご出身ということを知っていたの?」
「はい、もちろんでございます。私はかつて辺境伯家の侍女をしておりましたから」
「そうだったんだ。お義父様の手紙に辺境伯様が後盾になってくださると書いてあったから」
「確か現当主様は旦那様の甥御様だったはず。そういえばキール子爵は辺境伯様と従兄弟同士でしたね。それに旦那様が立ち上げたアレン商会も、今はキール子爵の弟様が商会長を引き継いでおります」
「ボクは何も知らなかったんだな」
「旦那様達はエル様には貴族家とはなるべく関わりを持たせないようにお育てになられましたから。それでも、自分達に万が一のことがあったらエル様がお困りにならないようされていたんではないでしょうか」
エルはそれはきっと自分の出自のせいだと思われた。もし自分が他国の貴族か王族の出身だと分かれば、面倒なことになるに違いない。きっと義両親は細心の注意を払って育ててくれたのだろう。
でもこれからは自分で自分の身を守らなくてはならない。
「取り敢えずウォートン弁護士が来るまでに必要な書類の準備をしなきゃね。あとキール子爵邸に行っていつ頃のご訪問になるか聞いてきてくれる?」
「かしこまりました」
マリーが部屋を出て行くと、エルは引き出しを開け、中を探ると引き出しの奥に小さい鍵穴があった。鍵束の中から鍵を取りだし開いてみると中に小さな小箱があり、その中に見事な深紅の宝石がついたペンダントが現れた。それをおもむろに手にとって見てみると様々な記憶・・しかも他人の・・が一気にエルの中に流れ込んできた。
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