79. 出発 ②
辺りがシンと静まった。
大森林の向こうに最初の暁光が差し始めた。
息を飲んで見つめた人々の口からどよめきが起こる。
そこには魔の森を貫く『黄金の道』が姿を現していた。地平線まで真っ直ぐ魔の森を貫き、黄金の輝きを帯びながらそれはそこにあった。
その神々しい姿に人々はいや、何者にも動じない冒険者達でさえ祈りを捧げたくなる何かを持っていた。
一瞬の静寂の後、人々は古い石橋に殺到した。石橋を渡った後、吸い込まれるように『黄金の道』へと入っていく。
エル達一行も導かれるように馬車を進めた。
誰もが無言で橋を渡っていく。粛々と渡っていく前方で騒ぎが起こった。
「助けてくれ!ドラゴンが出たぞ!」
引き返そうとする者、橋を渡ろうとする者とでもみ合いになり辺りは混沌となる。
見ると『黄金の道』の中程に巨大なシルエットが見えた。それは何かを捜すように辺りを睥睨していた。
「キュイ」突然、ロンが頭を出しそれを呼んだ。すると巨大なシルエットは一瞬で見えなくなり、混乱した人々は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「何だったんだ、あれは。目の錯覚か?」
「お、俺はみたぞ。すっげえでかいドラゴンがこっちを睨んでた」
「でもよ、何処に行ったんだ?」
「畜生、驚かせやがって」
人々はドラゴンの姿を捜したが、そこには『黄金の道』と鬱蒼とした魔の森しか見えない。落ち着きを取り戻した人々はまた石橋を渡り、次々と『黄金の道』へと歩を進めて行った。
「おい、ロン、あれお前の仲間か?」
「キュイ」そうだというようにロンが頷く。
「あー、参ったな。あれ、お前を捜しに来ていたようだった。あんなのにかかっちゃ俺達なんてひと思いに踏み潰されるぞ」
「心配いらないよ。竜族は無闇に人を襲わない。丁度『黄金の道』が開いたから様子を見に来ただけだって」とセイガはアレクの膝の上で言った。
その様子を隣の荷馬車のデン達は目を皿のようにして見ている。
「お、おい。お前さん達、随分物騒な奴を連れているな」
「ああ、こいつには森の中で出会ったんだ。結界があって帰れなくなったらしい。俺達はまず、こいつの仲間のところへいってみるよ」
「そ、そうか。この先、道が3つに分かれているな。俺達は真っ直ぐ『黄金の道』を進んで行くが」
「キュイ」
「ロンが右の道に行きたいって」とセイガは尻尾を振りながら言う。
「ということだ。短い間だったけどありがとう。俺達は右の道を進む。幸多からんことを。良き旅を」
「良き旅を」
デン達は真っ直ぐ『黄金の道』を進んで行った。
「キュイ」 ロンは嬉しそうに鳴いた。
俺達は右の道に方向転換し進み始める。竜族の国とは一体どんなところだろう。
これにて第三章終了です。次回は第四章に入ります。