74. 魔の森で拾った奇妙な生き物 ②
腰のポーチにそいつを入れながらエルが言った
「師匠、この子に名前を付けたいです」 「キュイ」
「ああ、別にいいんじゃない」
「じゃあ、ロンで」
と言った途端、ロンは白い光に包まれた。
ーーーー待て待て龍・ロンだと。止めようとしたが間に合わない。
白い光が収まり、ロンを見たが相変わらず小さいまま「キュイ」と鳴いていたので安心した。
ズデーデン王国の西側はヨルド川を渡ることなく魔の森と繋がっている。これはヨルド川が東へ大きく迂回しているからである。その西側一帯は太古よりオオカミ獣人の縄張りであった。
ここでちょっとした騒ぎが起きていた。
「族長、やはりおられません」
「また、いなくなられたか。困った方だのう。もうよい。わしらではあの方の足には敵わないのだから。暫くすればまた戻っていらっしゃるに違いない」
エルと俺は魔の森の縁をヨルド川沿いに北上し無人の番小屋に来ていた。ここはズデーデン王国との国境になるが、定期的に兵士が見回りに来るだけで、普段は無人となっているのだろう。
「エル、今日はここに泊まろうか」
「はい」
エルはドサッと獲物を置いた。ホーンラビットだ。中型犬くらいの大きさがある。身体強化の練習だとそれを3羽担いで来ていた。
「じゃあ、血抜きをして内蔵処理だな」
「最初は慣れないかもしれないが、誰でも出来るようになる。やり方をよく見ておくんだ」と俺はエルの前で血抜きを始める。
血抜きと内蔵処理をして出来た肉塊を細切れにして大鍋に放り込んだ。処理後に残った角と毛皮は荷物と一纏めにしておく。
「夕飯はホーンラビットのシチューだ。持ってきた野菜もこの中に放り込んでくれ」と言ってエルに荷物を渡す。
エルは俺が持ってきた乾燥野菜を興味深そうに手に取り鍋の中に入れている。
「こうして野菜を乾燥させれば重量もかさもずっとすくなくなるだろう?」
ぐつぐつと鍋が煮立ち、いい匂いが辺りに漂い始めた時だった。
真っ白でもふもふした何かがこちらに走ってきた。よく見るとオオカミの子だ。
その子が
「ふああ、いい匂い。僕、お腹ペコペコなんだ」と言って、鍋の前にお座りするとエルは驚いた顔をして固まった。
「お前、オオカミ獣人の子か?」と俺が聞くと
「んー、ちょっと違う。それより早く食べようよ」と尻尾をぶんぶん振って座っている。
俺は苦笑して、鍋からシチューを皿に移した。
「熱いから、もう少し冷ましてから食え」と言い皿を渡した。
エルはというと固まったままだ。オオカミ獣人に会ったことがなければ当然の反応だろう。
それも奴が皿をがっついているときに、俺の方を見、何か言いたそうにした。
「エルはオオカミ獣人を見るのは初めてか?」