71. 第二王子アレキサンダー
街での仕事を終え、キール子爵は自邸へと馬車を走らせていた。
ふと窓の外を見る。牧場に見慣れぬ青毛の馬がゆうゆうと草を食んでいた。滅多に見られない立派な軍馬だ。キール子爵の記憶が警鐘を鳴らした。
子爵は行き先を自邸からエル達の邸への変更を馭者に命じた。
「それとな、エル、家の人達にはどう説明する?」
「私からキチンと説明します。皆、分かってくれる人達ですから」
「そうか。それからその泣き顔何とかしなきゃな。ヒール」
エルの泣き腫らした顔は一瞬で元に戻った。
「すごい、すごいです!」とエルは歓声をあげたその時、慌ただしくノックされマリーが入ってきた。
「エル様、キール子爵がお見えです。なんでも至急、馬のことで確認したいそうで。アレクさんも一緒にお願いします」
ーーークロックが何かやったのかな?
「なんだろう。直ぐ行くよ」
子爵は居間に通されたが、落ち着かないように見えた。
マリーはお茶を出しながら「何かありましたか」と尋ねると、
「馬のことで聞きたいことがある。エルを呼んでくれるか」といい黙り込んだ。
ジョンがアレクさんの黒馬を牧場に放したと言ってたからその事かしら。
マリーはアレクも呼ぶことにした。
エルとアレクが居間に入っていくと、キール子爵が驚いて立ち上がりそして跪いた。
「第二王子アレキサンダー殿下におかれましては・・・」
ーーーーあちゃ~、身バレしたっちゃか
「子爵、今の俺は一介の冒険者アレク。そういうことだ」と子爵の挨拶を遮るように言った。
子爵は言葉を止め、アレクを見上げると「承知いたしました」と言って立ち上がった。
周りをみると、全員、子爵の言葉に固まっていた。
いきなりマリーが跪き、「王子殿下とは知らず、これまでの数々のご無礼・・」
「やめてくれ」と言って、俺はマリーの手をとって立たせた。
「皆もいいかい。俺は冒険者のアレク。それ以外の何者でもない。他言は無用だ」
ひとまず部屋の空気が落ち着いたので、マリーにお茶を用意して貰い、エルには席を外してもらった。そして俺は子爵の正面に座った。
「一瞥以来だな、子爵」
「はい。王宮で殿下にアインステッドのことをいろいろ尋ねられて以来になります。でもまさか本当に殿下がお越しになるとは夢にも思わず、知らぬことはいえ失礼をいたしました」
「実は、折り入って子爵に頼みがある」
俺はマリーの運んできたお茶を一口飲んで、話を切り出した。
今度はアレクの身バレです。