70. エルの秘密
「エル、お前、女の子だったのか」
「はい。こんな格好をしてますが私は女性です」
ーーーああ、参った。全然気づかなかった。
「師匠、お読みになってお分かりになったと思いますが、私はこの国の者ではないようです。それどころか『黄金の道』の先にある『ユークリッド王国』の者だそうです。私はその国へ行ってみたい。何故命を狙われているのか確かめたいのです。でないと、この家にいるものやお世話になっている方々を危険にさらすことになるからです」
「それで、その紅玉のペンダントだが・・」
「これを身に付けたとき、私は1週間、意識不明で寝込んでいたんだそうです。家の者はこのペンダントが見えないようで、お医者様を呼んでも原因は分からなかったそうです」
「その間、私は長い夢を見ていました。ユイとシン・サクライの物語を」
「待て、今、なんて言った?」
「ユイとシン・サクライの物語と」
ーーーなんてこった。ここでも『サクライ』か。この世界に『サクライ』が深く関わっているということか。
考え込んでしまった俺に、エルは怪訝な表情をみせた。
「師匠?」
「ああ、ごめん、続けて」
「それで、ユイとシンは魔法使いだったのです。特にシンは別の世界からやって来たそうです。で、彼らの記憶をこの紅玉に封じ込めたといってました。それには魔法のことも含んでいます」
ーーー別世界だと?
「彼らは『エルドラド』に行かなければならなくて、子供にこのペンダントを残すのだと」
「ですから、私はなんとしても魔法を覚えて彼らの残したペンダントを読み取りたいのです」
「話はわかった。エル、お前、俺と一緒に『黄金の道』に行ってみるか」
「はい!お願いします」といってエルは泣き出した。
「おい、泣くなよ。俺が泣かせたみたいじゃないか」
「だって、ヒック、嬉しくて。ヒック、不安でたまらなかったんだもん」
「あー、わかった、わかった。だけど魔法の訓練は厳しくするぞ」
「はい、わかりました」
「それとな、エル、家の人達にはどう説明する?」
階下ではちょっとした騒ぎが起きていた。キール子爵自らこの邸にやって来ていた。
アレクにエルの秘密がバレましたね。次回はアレクの秘密がバレる番です。