69. アレクの戸惑い ③
朝食を済ませ、再びアレクとエルは牧場にやって来た。
「じゃあ、魔法の練習を始める」
「はい、師匠!」
「お前なあ。まあいい。最初にやったように火の玉を出して見ろ」
エルは火の玉を手の平に浮かべた。
「ん?」何かおかしい。こいつは精霊を使っている訳ではない。でも自身の魔力も使っていない。魔導具の力か?でもそれらしい物を身に付けてはいないし。
「お前、自身の魔力を感じたことはあるか?」
「魔力ですか?わかりません」
「ではまずそこからだな。腹に手をやって何か温かいものを感じるか?」
「えっと、あ、お腹に何か温かいものがあります」
「じゃあ、集中してそれを体中に巡らすんだ。胸、両肩、首、頭、戻して首、両肩、両腕、腹まで戻して両足、爪先までいったらまた戻す。それを繰り返して」
「わかりました。・・・あ、でもこれ難しい。途中でわからなくなっちゃう」
「わからなくなったら、また腹にもどってやり直す」
結局、午前中は両腕までの循環で終わった。
「まだまだだな。午後は足の方まで魔力が行き渡るようにしろ。これは基本中の基本だ。お前火の玉を出していたが、魔導具か何か使っているだろう?」
「バレましたか。魔導具かは分からないんですけど・・・これ」
と言って、不意に手の上に赤いペンダントを出した。
「このペンダントは僕が念じると、消えたり現れたりします。で、他にも出来るかなと思って火を出してみたらこうやって出たんです。でもそこまでで」
「このペンダントは?」
「これは僕の大事なペンダントなんです。師匠、これからお話することを信じていただけますか」
「信じると言いたいが、場合による」俺は正直に答えた。
エルが重大な秘密を抱えているのを知らずに。
「わかりました。それでは昼食後、僕の部屋に来ていただけますか?お見せしたいものがあります」
昼食後、俺達はエルの部屋に向かった。
エルは部屋に入ると、近くのソファーに座るよう勧め、1通の手紙を持ってきた。
「これは亡き義父が私宛に書いた遺書です。家の者には見せておりません。ただ、これを見せると師匠にも危険が及ぶかもしれません。それでもご覧になりますか?」
俺は甘く考えていたのかもしれない。という考えが頭の隅をよぎった。でも、ここまで来たら読むしかあるまい。
「わかった、他言はしない。危険も引き受けた」
エルは紅い瞳でじっと俺を見つめ
「では、お読みください」とその遺書を俺に手渡した。
そこにはエルがどうしてロジャー・アレンに引き取られたか、彼がどのようにエルを守ってきたのかが綴られていた。もちろん、ペンダントのことも。
「エル、お前女の子だったのか」