66. 義両親が残したものとエルの決意
話は2週間前に戻ります。
辺境伯と子爵が揃って弔問に訪れたのは2週間前の事だった。
なんでも国王が回復され、第一王子と王妃が幽閉されるという大変な事が起きたため王都を出るのが遅くなってしまったそうだ。
こちらもエルが1週間寝込んでしまったため、お迎えする準備が間に合わなかったので遅れてくれてありがたかった。
エルは門前で二人を迎えた。辺境伯に会うのは初めてだった。
「ほう、噂には聞いていたが黒髪に赤い瞳か。美しいな」
「そうでしょう、私も最初に会ったときは驚きました」
「お二人に弔問して頂き、義両親も光栄に思っていることでしょう。墓地はこちらでございます」
お墓に案内し、暫し黙祷を捧げ邸に戻ってきた。
「惜しい人を亡くしたな」
「全くです。アレン商会を継いだ弟などもまだまだ教わることがあったのにと悔やんでおります」
「ところで、エル、そなたいくつになった」
「12でございます」
「ロジャー殿から、もし何かあったら後見して欲しいと頼まれていてな。何ならわしの養子にはいるか?貴族になった方がこの先、生きやすいのではないか」
「ありがとうございます、閣下。けれど私は義両親の子としてこの先も生きていきたいと思っております。」
「ふむ、残念だな。だが、困ったことが起きたら遠慮せずわしに知らせるのだぞ」
「はい。ありがとうございます」
「わしの所より、子爵、お前のほうが近くにいるのだから面倒みてやってくれ」
「ええ、分かっております」
そして二人は王都の事なども交え歓談したあと帰って行った。
「ふう、終わったね」
「はい。あとウォートン弁護士が先程からお待ちでございます」
「わかった」
「お初にお目に掛かります。弁護士のウォートンでございます」
「エルです。宜しくお願いします」
「この邸とロジャー様名義の銀行預金及び魔導具の収益10%はすべてエル様に相続されることとなります。こちらは役所で相続の手続きの書類となります。お読み頂いたらサインをお願いいたします」
エルが一生困らないよう義両親が残してくれたものだ。エルはまた涙が頬を伝うのを感じた。
でも私は『黄金の道』に進もうとしている。それを義両親はどう思うだろう。
エルは心の中で詫びた。そして『黄金の道』から必ず戻ってくることを心に誓った。