65. 不思議な少年 ②
「えっ、君、魔法って」
「だから魔法ですよ。僕、魔法をどうしても教わりたいんです」
「だが魔法には資質が必要なんだ」
「大丈夫だと思います」と言って少年は手の平の上に火の玉を浮かべて見せた。
「ほら。でもこれくらいしか出来なくて」
俺は正直驚いた。俺は俺以外の人間が魔法を扱うのを初めて見た。
「じゃあ、そういうことでお願いします」と言ってエルはウキウキと荷馬車を動かし始めた。俺は仕方なく後をついて行くことにした。
エルの家は大きくて立派だった。エルは荷馬車を飛び降り護衛を1人連れてきた。
「ジョン、こちらアレクさん。途中助けて頂いたんだ。暫く滞在するから厩に案内してあげて。あと、荷物は荷馬車に積んどいていいよ。あ、マリーに言っとかなきゃ」
と言って邸の方へ駆けていった。
「アレクさん、こっちです。それにしても見事な馬ですな」
「ああ、クロックと言うんだ。子馬の頃から育てている」
「なるほど、アレクさんに相当懐いている」
話ながら歩いていると立派な厩舎についた。奥には馬車も置いてある。
「エル君はどういうお子さんですか」
「ああ、あの外見です。驚かれたでしょう。旦那様達が訳あって引き取られたのですよ。ああ、旦那様はあのアレン商会を立ち上げた方だったんです」
「そうでしたか」
ーーー アレン商会といえばこの国でも10指に入る大店だ。
「お世話になります」
「いやいや、あなたがエル様に街から付いて貰ってホッとしてるんですよ。何しろ今の時期は物騒ですからね。あなた剣の腕は相当できるんでしょう?」
「わしは昔、冒険者をやっていてちょっとしたもんだったんですよ。そのわしからみても、あなたに勝てる気がしない」
エルは邸の中に入ると、早速マリーを見つけ、話だした。
「マリー、途中で荷馬車が壊れて立ち往生しているところに通り掛かって直してくれた方がいるの。その人は冒険者で宿泊されるところがなくて困ってらしたの。家に招待したけど、いいよね」
マリーはちょっと眉をしかめ「冒険者ですか。でもお世話になった方なら」
と渋々了承してくれた。
エルは一旦、自分の部屋に戻り小さくガッツポーズをした。
これまで諦めていた魔法を使える人物がいた。しかも彼は『黄金の道』に赴くという。
彼と共に『黄金の道』を旅することが出来たなら・・・
エルの夢はどんどん広がって行くのであった。