64. 不思議な少年 ①
初めて"始まりの街"には入った俺はその賑やかさに驚いた。
何も無い辺鄙な田舎街だと思っていた俺は、その賑やかさ、王都も凌ぐほどの市場の活気に呆気にとられ、ただ辺りを見渡していた。
「ポーションはどうだい。必需品だよ」
「武器の研ぎ、安くしとくよ」
「干果どうだい。携行食糧として持ってきな」
旺盛な呼び声があちこちで掛けられる。
そんな市場の雑踏を抜け、冒険者ギルドを訪れた。実は王都で登録をし、魔獣などを狩っては換金していた。金銭目的ではなく、情報を得るのに丁度良かった。
「コカトリス一羽、換金を頼む」
「コカトリスですね。そこの台に乗せて下さい」
「見事なコカトリスですね。損傷が少なく状態もいい。これなら金貨1枚と銀貨3枚でどうですか」
コカトリスはその羽毛が貴族たちに好まれる他、肉も高級肉だ。
「それで頼む。ところで空いている宿屋はないかい?」
「ああ、この時期どこも一杯なんですよね。街外れに2件宿がありますがそこも空いているかどうか」
「そうか。行ってみるよ」
金を受け取り外へ出た。
相変わらず賑やかな市場を通り抜け街道に出る。暫く進むと、1台の荷馬車が立ち往生していた。
「やあ、どうしたんだい?」
声をかけて振り向いた少年を見て驚いた。透き通るような白い肌に黒髪、ルビーを思わせる深紅の瞳とこの辺りでは見られない美しい少年が俺を見上げていた。
最初は警戒していたが、俺の容姿とクロックを見て安心したらしい。
「車輪が壊れたようで動かなくなってしまったんです。あの・・僕の家、近くにあるので人を呼んできますのでそれまで荷馬車を見ていて貰えませんか」
「車輪が?ちょっと見せてみて」
確かに車輪が外れて壊れている。車輪を交換しないとダメだな。でもこれくらいならどうにか出来る。
俺は魔法を使って車輪を元の位置に戻し、修理した。視線を感じふと見ると少年がきらきらした目で俺を見ていた。
「すごい、魔法が使えるなんて!ああ、失礼しました。僕はエル。荷馬車を直して頂きありがとうございます」
「俺はアレク。冒険者だ」
「冒険者ってことは『黄金の道』に行かれるのですか」
「そのつもりだ。宿を捜しに来ていたんだ」
「それなら是非、僕の家に泊まってください。この近くにありますから」
「いやでも、知らない男が泊まるなんてご両親がなんていうか」
「両親は今冬、流行病でなくなりました。今は僕と使用人だけです。それに宿はどこも一杯ですよ。野宿か領都まで戻らなければいけませんよ」
と渋る俺に少年は畳みかけた。
「それに僕、魔法を教えて欲しいんです」
いよいよ第三章の幕開けです。主人公エルとアルクがやっと出会いました。