60. 離宮への疾走
ベルトランへ到着しました。
夜明け前、まだ夜が明けきらぬ薄暮の中、セリーヌ侯爵邸は慌ただしさに包まれていた。
「旦那様、旦那様!」うるさくノックをする音に侯爵は不機嫌に応じた。
「どうしたのた、ルクス。何やら邸が騒がしいようだが」
「ズデーデン王国の使者が兵と共に参っております。旦那様に至急面会を希望されております」
「何!すぐ会おう。使者は談話室に通しておいてくれ」
侯爵が談話室に赴くと、黒いローブを纏った2人の使者がいた。
「お人払いを」 片方の使者が告げる。
侯爵は護衛騎士達を目で合図し、下がらせた。
誰も居なくなったところで使者はローブのフードをゆっくり外した。
「久しいな。セリーヌ侯」
侯爵が驚きの声を上げた。「アレキサンダー王子殿下、それにキース殿」
俺は以前何度か公式の場でセリーヌ侯爵に会っている。最後に会ったのは、俺が留学する直前だった。
「驚かしてすまない。実は極秘で事を運ばなければならなかったのでな。シュゼイン伯爵からの書状を持ってきた」
「失礼します」と書状を受け取り目を通す。
それには、国王軍に包囲され、監禁されたこと。しかし、王子殿下の夜襲により解放されたこと。王子殿下は秘密裡に離宮へ向かいお二方を解放後、国王陛下にお会いするため王宮に向かわれる事などが書かれており、最後に殿下に便宜を図って欲しいことなどが、綴られていた。
「わかりました。それでどのような便宜を図ればよろしいので」
「夜通し駆けてもへこたれない者を少々借り受けたい。ズデーデン王国からも1個小隊借り受けたが、少々心もとない」
「承知いたしました。すぐに準備させます。それまで殿下はこちらでお休みください」と言って、侯爵は護衛騎士に何かを命じ、その後、彼らを今に案内した。
「大きゅうなられましたな。それに見違えるほど立派になられた」
と侯爵は言い、そして突然彼らに頭を下げた。
「実は、ソフィアと第三王子のことは何も出来ずに手をこまねいていたのです。アレキサンダー殿下がソフィアと第三王子のことをお心に留め置いて頂き感謝に堪えません」
「顔を上げて下さい、侯爵。私はただ、弟を救いに行きたいだけです」
夜が明ける頃には準備が整い、屈強な馬に跨がった騎士と共に彼らは疾駆した。
オオカミ獣人達はオオカミに変身して彼らを追走する。
朝焼けに登る太陽が、王都への道を赤々と照らしていた。