6.義父 ロジャー・アレン①
エルは手紙を胸に押し当て声もなく泣いた。涙が止まらなかった。そして義両親の己に対する深い愛情とあまりにも義両親のことについて自分が知らないことに戦慄した。今まで知る機会が沢山あったのにどうして知ろうとしなかったのだろうと悔やんでも悔やみきれない思いが胸の中を駆け巡った。そして彼らの過去に関するものはないかと部屋を物色しはじめた。
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エルの義父ロジャー・アレンは辺境伯の三男としてこの世に生を受けた。兄二人とは一回り以上歳が離れている。末っ子のせいか皆に可愛がられた。一つ上の姉、7歳のサンドラは弟ができたことに狂喜してなにくれとなく世話をしたがり、周囲を困らせていたりしていた。このとき長兄マイケルは16歳、次兄イザークは15歳で王都の王立学院に通っていたが、2人とも幼い弟可愛がり、学院の長期休暇で帰省の際には王都で買ったおもちゃやお菓子を山のように馬車に詰め込んで皆にあきれられていた。
そんな幸せな幼少期を過ごし少年期になると、自然に彼は自分の立場を理解するようになる。貴族の三男などはどこかに婿養子に入るか、騎士になり自分の手で爵位を獲得するかしなければこのまま貴族ではいられないと。思い悩みながらも兄達と同じく、王都の王立学院の入った。
その頃には長兄マイケルは次期当主に、次兄イザークはキール子爵家へ養子へ入り、アインステッドの代官に収まっていた。そして、姉サンドラは隣の領地のウィスター伯爵へ嫁いでいた。
王立学院でロジャーは初めて恋をした。相手はメリッサ・エバンス。エバンス子爵家の三女だ。亜麻色の髪の目のくりっとした幼さを残した可愛い子だった。彼女は同じく学院で学んでいたが、偶然同じ図書委員となることで、年下の彼女と話をするようになった。
彼女は普通の令嬢とは違い未知のもの、特に黄金の道に大変興味を持っていた。ロジャーが辺境伯の子息だと知ると、目を輝かせてカレン郡のことを聞きたがった。そんな彼女にいつしか恋をし、二人の将来を考えるようになった矢先、事件が起こった。エバンス家が破産し、領地返納の上、平民に落ちることになったのだ。
卒業後には長兄の補佐をするべく領地経営を学んでいた彼だったが、ここで人生の舵を大きくきることになる。
義両親と周囲の状況。もうしばらく続きます。