56. 第三王子のヒーロー
俺とキースは首都カルアを抜け、キリルに向かう街道をひたすら走っていた。
「殿下、そろそろ日が暮れます。この先にヤガという小さな街がありますので今日はそこで泊まりましょう」
「そうだな。クロック達も休ませなければならないしな」
馬の足を緩めながら、俺は思い出し笑いをした。「ふふふ」
「どうしたんですか」
「レイの手紙に、俺の弟が俺のことを『かっこいい』といっていたと書いてあったことを思い出してな。俺はケルティウスにはそれほど会った記憶はないんだが」
「それは殿下が気づいておられなかったからでは」
「そうなのか」
キースは物陰から、殿下の剣の稽古の様子を一心に見つめる小さな王子を思い出し、微笑んだ。
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あれは僕が6歳の頃だ。王宮の庭園でウサギを見つけ追いかけて森の中に入った時のことだ。
どこからともなく剣の打ち合う音が聞こえてきて、音を頼りに進んで行くと森の中にポッカリ空いた広場があった。どうやらここで誰かが剣の稽古をしてるらしい。
よく見ると銀髪の細身の少年と騎士が打ち合っている。少年は銀髪をなびかせそのしなやかな体全体で騎士の攻撃を受け止め、いなし、かわしていた。
「すごい」
僕はその少年の流れるような剣技にため息をもらした。
「ケルティネスさまー、何処にいらっしゃるのですかー」
遠くで僕を捜す声が聞こえてきたので慌てて声のするほうに戻っていった。
だけど僕の脳裏にあの銀髪の少年の鮮やかな剣技が焼き付いて離れなかった。
その後も僕はちょくちょく隙を見ては、少年の剣の稽古を見に行った。
少年は何度見てもかっこよかった。彼は僕のヒーローだ。
少年が離宮に住んでいるアレキサンダー兄上だと知るのにそれほど時間はかからなかった。
僕も兄上のようになりたくて、剣の稽古を一生懸命した。でも兄上のようにはいかない。
そんな時、僕の護衛騎士にレイモンドがなった。
レイモンドは兄上と共にズデーデンの王立学院に留学していたらしい。兄上は剣の腕だけでなく、勉強も学年でいつも一番だったそうだ。すごいなあ。
父上が病で倒れてから、僕と母上は離宮に移された。兄上もここで過ごされていたのかもしれないけどここの人達は何かおかしい。皆、母上と僕にひどく冷たい。その上、僕はもう勉強する必要がないといって家庭教師の先生もこなくなった。食事も固いパンと薄いスープだけになった。外には騎士達が見張っていて出られなくなっている。このまま父上が良くならなかったら、僕たちは死ぬんだろうか。
レイモンドがアレキサンダー兄上に手紙を出したと言っていた。
アレキサンダー兄上、僕、あなたが助けてくれることを信じて待っています。
ケルティウス君はアレキサンダーの大ファンだったのですね。評価ボタンありがとうございます。とても励みになります。