54. アーサ・ケン・シュトラウスの苦悩
アーサー現国王サイドの見方です
俺はシュトラウス国の第四王子として生まれた。俺の母親は側室で、俺に王座が回ってくるはずがなく何の期待もされずに育った。だからだろうか、貴族達の権力争いに巻き込まれることもなく少年時代を伸び伸びと送れた。
それが変わったのは俺が15歳になり、王立学院に通い出した頃だ。
この年の冬はたちの悪い流感が流行り、あっという間に兄二人が天に召されてしまったのだ。
生き残ったのは、長男である王太子と四男である俺。俄然、貴族の目は俺に注がれるようになる。それと同時に、王位継承権2位となった俺に本格的に教育が始まったのはいうまでもない。
その頃から、俺の后選びが激化しだした。
俺にはもともとソフィアという伯爵令嬢の婚約者がいたのだが、無理矢理婚約を白紙にされ、ケイダリア公爵令嬢であるヴィクトリアとの婚約を結ばされた。なんの後ろ楯もない俺にはどうする事も出来なかった。
新しく婚約者になったヴィクトリアはプライドが高く、誰に対しても横柄な態度をとるので好きにはなれなかった。
俺が22歳になった時、王弟として職務に従事している際に国王急死の報がもたらされた。視察に出向いた先で魔獣に襲われたらしい。兄である国王には子がなく、必然的におれが次代の国王となった。
俺とヴィクトリアの仲は冷め切っていたが、責務と思って努めを果たしたところ、双子が生まれた。
そこで俺は以前婚約者だったソフィアを側室に迎えた。ケイダリア家の関心が双子に向いていれば彼女は安全だと思ったからだった。
ところがこれは大きな誤算だった。ヴィクトリアの関心は長男のアキレウスだけであり、次男のアレキサンダーを離宮へと移したのだ。しかもアレキサンダーの様子がどうもおかしい。
そこで俺は学院で仲の良かった近衛のキースをアレキサンダーに付けることにした。キースの報告によればアレキサンダーはいつもボーッとして集中力を欠いているという。さらに原因を調べようとしたところに落馬事故が起こった。証拠はなにもないが離宮内で何かあったことは間違いない。それからは監視を強化したところ異常はなくなった。それどころか、アレキサンダーは舌を巻くほど優秀な子に育っていった。
そうしている内にソフィアにも第一王女と第三王子が生まれた。
ところが頭の痛い問題が出てきた。
アレキサンダーは第一王子とのトラブルを避け、ズデーデン王国に留学したが、国の王立学院に入った第一王子アキレウスの評判と成績がすこぶる悪い。
そうなると貴族達はズデーデン留学中のアレキサンダーとまだ幼い第三王子に期待を寄せだした。
俺は影を使いアキレウスの行状を調べさせたが思った以上に悪い。戒めも兼ねて、優秀な者を次代国王にすると発表した。
ケイダリア家が再び暗躍するとも知らずに。