53. ケイダリア公爵家の思惑
シュトラウス王国の話に戻ります。
ケイダリア公爵家は建国当時から続く古い家柄である。
これまで何人もの王妃を送り込んで王家と姻戚関係を結び、絶大な権力を握ってきていた。
ただ、最近の公爵家は女児に恵まれずその権力に影がさしていた。
そんな時、公爵家に女児が誕生した。ヴィクトリアと名付けられたその女児は現王の后へとなるべく公爵家の総力をあげ他家の候補者を排除し、王妃の座に納まり、懐妊した。
すべて順調だった。ところが王妃が生んだのは、金銀の髪を持った双子だった。
銀の髪を持つ子供はケイダリア家にとって忌み子だった。あの『オットー・シュトラウス』を思い出させるからである。
ケイダリア家初代、ヒューム・ケイダリアはケン・サクライについて魔法を修行していた弟子の一人だった。どんなに頑張っても魔法が発現しない。その内、魔法を使いこなし師匠に愛されているオットーへの激しい嫉妬心が芽生えた。その嫉妬心が、同じく双子の兄であるにも関わらず魔法が発現しないニールをそそのかし、オットーを川向こうの荒野へ追う事となったのだ。
それからはケイダリア家出身の王妃達は必ずといっていいほど金銀の髪色を持つ双子を産むようになった。双子の銀髪の子は優秀な子が多かった。これでは姻戚として権力がふるえない。彼らは密かに銀髪の子を始末してきた暗い過去があった。
今回もケイダリア家は迷わなかった。ヴィクトリア自身、長男のアキレウスを溺愛して次男アレキサンダーをないがしろにしていたこともある。
王妃ヴィクトリアを通じ、アレキサンダーを王の目が届かない離宮に移すことに成功した。
彼らは巧妙だった。疑われぬよう彼の健康を害していった。アヘンを少量づつ香を焚くという方法で彼に吸わせ、彼の思考と集中力を奪っていった。現王がおかしいと感じキースという優秀な近衛をつけるまでそれは続いた。流石にそれ以上アヘンを使うことはできなかった。
そしてそれは決行された。無気力でぼんやりしている彼を馬の稽古と偽り馬に乗せ、馬の耳に蜂を入れたのだ。馬は驚き暴れ、暴走した。ぼんやり手綱を握って居た彼は落馬し、意識不明の重体となった。もともとアヘンによって健康を損ねていたため長くは持たないはずだった。
ところが、彼は生き返ったのだった。それも最悪な形で。
離宮への王の監視は厳しくなった。もう、同じ手は使えない。そう手をこまねいているうちに側妃の息子の第3王子が聡明だと噂が広まった。
第一王子の人気は、はかばかしくなかった。ヴィクトリアに甘やかされ育ったせいで、依頼心が強く甘ったれで、その上プライドだけは高かった。勉強や武芸にしても周りがおだてるため、努力もせず、それでいて自分より優秀な者を妬んだ。特に双子の弟であるアレキサンダーには妬みを通り越して憎んでさえいた。
そのアレキサンダーがズデーデン王国に留学することになり、ケイダリア家は暫く矛を収めるはずだった。
ところが、現国王のアーサーが、生まれ順ではなく、一番優秀な者に後を継がせると宣言した。
そうして彼らの狙いは第三王子に向かった。
何としても第一王子に王位を継いで貰わなければならない。邪魔な者は排除する。彼らは昔からそうしてきた。
たとえ国王が彼らに敵対するとしても・・・