52. 魔法使いへの道 ⑧
翌朝、早起きをしてクロックに会いに行った。ここ数日俺に会うことが出来なかったためか、興奮して大変だった。東の塔の裏の草原に放つと一目散に駆けていった。余程嬉しかったのだろう。
午前中に座学をして、昼食の準備をしていたところ学院長が現れた。
「何だかいい匂いがすると思ったら、サイラス、お前、生徒に昼飯つくらせているのか?」
「やあ、カシアス、彼は料理の天才なんだよ!」
「カシアス先生も昼食、ご一緒しますか?」
学院長はちょっと考えて「君の負担でなければ頼めるか?」
「人数が1人増えても負担になりませんよ」といってもう1人分追加した。
(外に居るキースの分も勿論入っている)
今日は塩・胡椒で味付けした鳥の唐揚げにしてみた。後はグリーンサラダと鳥出汁のキノコのスープ。大丈夫かなと思ったけどなかなかいける。ーーーああ醤油が欲しい。
学院長もサイラス先生も無言で食べ続けた。そしておもむろに二人で顔をあげ「君はまさに天才だ!」
と叫んだ。
ーーーとほほ、これ学院長が来るとき昼食を出すことが決まったな。
食後のハーブティを飲みながら、学院長は「闇魔法の訓練は来月にすると言いに来た」と言い、
「ああ、もうすぐ満月だからな」といって先生は納得している。
満月が何か関係あるのかなと首を捻っていたが、あることを思いだした。
『ワーウルフ』 これに関係しているに違いない。
そんなわけで俺は毎朝クロックに乗り、キースと共に東の塔に通った。
瞬く間に3年の月日が流れ、俺は18歳になった。
もう来月には学院を卒業すると言うある日、レイに出会った。
「お久しぶりです。アレク様。ゴーシュさんを僕付きにしてもらい本当にありがとうございました。おかげさまで無事卒業できます」
「レイも立派な騎士見習いだね。この後、国に帰って騎士試験を受けるの?」
「はい、でもゴーシュさんから大丈夫とお墨付きを貰いました」
と言ってレイは明るく笑った。
「卒業後、アレク様はどうなされるのですか?」
「うん、まだ当分、僕はこっちにいるよ。研究したいことがあるんだ」
「そうですか。一緒に帰国できないのは残念ですが、研究のためなら仕方がないですね。向こうについたら手紙出します。研究頑張ってください」
「レイも立派な騎士になって、国のために頑張ってくれ」
こうして、レイは卒業しゴーシュと共に国に帰っていった。
レイはこちらに来て俺が魔法を学ぶことに最初は戸惑っていたが、今では大体の事情を把握している。恐らく、帰国しても黙っていてくれるはずだ。
ーーと思いたい。
俺は今では『魔法使い』といっても差し障りはないだろう。けれどまだ足りない。
あくまで『魔法使い』であって『魔術師』ではないのだから。
魔法使いへの道にお付き合い下さりありがとうございました。次回はシュトラウス国内編です。