409. 国の形 ②
移民の行く先も決まり、エルは自分の意見が通った事に満足していた。彼女が一番心を悩ませていた事は新たに入って来た人々と先住民の軋轢だった。アレクとイスタファンがエルの言った意見を尊重し軋轢を生まないよう考慮してくれたのが嬉しかった。
今まで教育問題、独居老人問題、母子家庭などに全力疾走してきたエルだが、ここへ来て少し余裕が出来た。かねてから希望していた領地訪問、クイル村へのお忍びの訪問を実行することにした。身軽に動けるように馬車ではなく久しぶりにクロムに乗った。うるさい司教達から逃れるため書き置きを残し、夜中に出発する。馬車なら1週間はかかる道のりだが、クロムで行けば5日ほどで行ける。エルは見つからないようにコッソリと厩に行き、クロムを引き出した。クロムは久しぶりの遠乗りが嬉しいらしく、軽快に走り出した。
夜明け頃にサガンの街に着く。エルは自分に認識阻害の魔法を掛け、クロムを引いて街の中に入った。正教会の裏手の厩舎に行き、クロムに水と馬草を与えた。自分は深くフードを被り、朝早くから開いている食堂に寄る。簡単な朝食を取り、再び厩舎に戻りクロムに乗った。途中、クロムを休ませながらゴランの街へ向かう。季節は初夏で、荒れた大地は草原に変っていた。エルは基本、眠らなくても大丈夫なのだがクロムを気遣って休み休み進んだ。一人で旅をするのは初めてだ。自由になった爽快感とちょっとした不安感を抱えて前に進んだ。
もうすぐゴランの街に入るという所で、空からエルを呼ぶ声が聞こえた。見上げるとロンが飛んでいる。
「エル~!酷いよ、置いていかないでよ」
エルの前に降り立ったロンは少し怒っている。
「ごめんなさい、ロン。忙しいと思ったから声かけなっかたの」
「何処行くの?僕もうエルを乗せて飛んで行けるよ?」
「そうね。クロムも大分疲れちゃったみたいだしロンに頼もうかな。クイル村に行きたいの」
「そうしなよ。僕ならひとっ飛びさ。クロムならゴランの正教会に預ければいいし」
「じゃあ、お願いするわ。預けてくるからちょっと待ってて」
そうしてエルはクロムを預け、ロンの背に乗りクイル村を目指した。遠くにオロイ湖が見えてきた。かつてエルがペンダントで見た景色そのままだ。クイル村の周囲には薬草畑が広がっている。ここだけはかつての景色と変らなかった。
「きれいな所だね」
「ええ。これもウィルのお陰ね。彼がここを担当したお陰で荒らされなくて済んだわ」
「どこで降りるの?」
「ほら、あの丘の上に白い建物がみえるでしょ?あれはユークリッド王国を建国した初代ヴィルヘルム王の廟なの。あそこにお参りに行きたかったの」
「分かった。じゃあ降りるからしっかり掴まってて」
ロンは高度を落とし、丘の上の廟の前に降り立った。ここからはオロイ湖が一望に見える。エルはペンダントを握り締め、廟の扉の前に行く。するとペンダントが赤く点滅し始め、重たい石の扉がゆっくりと開き始めた。中へ入ると意外にも中は明るかった。採光用の水晶の窓から光が射している。奥に入ると歴代の王の石棺が並んでいた。一段高い所にある石棺が初代国王ヴィルヘルムの棺だろう。エルはその前に行き祈りを捧げた。ロンもエルと同じように祈りを捧げている。
静寂の中、祈りを捧げているとふいに耳元で女性の声がした。




