407. 聖女の怒り ②
「アレク、貴方、現実を見てる?」
エルは鋭い瞳でアレクを見た。
「移民以外の民は、殆どが母子家庭なの。聖ピウス皇国に連れ去られた父親は何万もいると聞くわ。そうなると残された家族は子供でも働かなければ食べていけない。特に農民の子はそう。それに、貴方は当初、移民の数は2000人くらいと言っていたのにその倍以上の人がこの国に来ている。元々住んでいた人々と移民達の間で格差が広がっているわ。力のない母子家庭の人々と文化が発達したシュトラウス王国の移民達。差は歴然よ。この国が乗っ取られるんじゃないかと危ぶむことを言う人もいるわ。アレク、これが現実よ。人手が足りないからとただ人を入れれば良いという問題では無いわ」
思ってもみないエルの強い言葉に、アレクは呆然とした。だが確かに人手が足りないからという理由で、文化の違う他国から移民を大量に入れるのは、元々住んでいた人々に取っては我慢を強いることになるだろう。それだけではない。国が分裂する危機をも含んでいる。
「すまない、エル。俺は人手が足りないという面にばかり考えが偏ってしまっていた。浅慮だったことは認める。それと母子家庭のことだが・・。教育を受ける余裕も時間もないか・・。移民の件と母子家庭、早急に対処しなければならんな。イスタファン、王立学園とも連絡を取り、対策を立ててくれ」
「了解しました。聖女様、母子家庭はそんなに多いのですか?」
「ええ。何万人も鉱山に連れて行かれて帰って来たのは2000人ほど。男手が極端に少ないのよ。だからアレクも移民を急いだのだろうけど・・」
「それは深刻な問題ですね。移民の配置先も改めて検討しなければなりません。各村に教会は建てられるのですか」
「そのつもり。アレクから頼まれていた児童の学校のこともあるし。ただ現状、彼らには余裕がないってことなの。あと障害者やお年寄りのこともあるし。あとね、移民の人が村に来たとして彼らが夫婦神教を受け入れるかも未知数ね」
「成程、聖女様の憂慮も分かる気がします。シュトラウスからの移民は取敢えず街へ集めていますが、農村を希望する者も多くいます。教会から誰か派遣して貰い、各村への移民の配置なども検討したいと思います」
「そうしてくれるとありがたいわ。私はどうしても元からここに住んでいた人々の側に立ってしまうから貴方の様に外から移民を率いてきた人の意見も聞いておきたいの」
「そうですね。それにここには人間以外にも獣人や竜人、ドワーフなど多種族が住んでいますのでそのことも改めて考慮することにいたしましょう」
それを聞いてエルの愁眉が開いた。
「それとさっき心の傷を負った人達のことを言ったのだけれど、実は母子家庭も含めて寡婦の就職も考えて欲しいの」
「分かりました。各州知事とも話し合い早急に対処します」
そしてイスタファンとウィルは慌ただしく部屋を出て行った。
「ごめんな、エル。お前がそんな重荷を背負っていたなんて気付いてやれなくて」
「いいのよ、アレク。貴方も他のことで一杯一杯だったでしょう?」
「だからと言って許される事ではないな。俺もまだまだだ」
「あの子達はどうしてるの?」
「ロンとセイガか?あいつらは移民達の事で走り廻っている」
とそこへロンから心話が飛んできた。「アレク、ちょっと来てくれない?」




