400. イスタファンの就業 ①
「アレク様、お話して頂いてありがとうございます」
止めどなく溢れる涙を拭きながらイスタファンはアレクに礼を言った。暫くしんみりした空気が流れ誰も言葉を口にしなかった。だが、セイガが動いた。手前の皿から焼き菓子を取りイスタファンに差し出した。
「これ、アレクのお手製。美味しいよ。イスタファンはサイード王子とは仲が良かったの?」
「ええ。宮が隣同士で一番仲が良かったと思います。それに兄上にはいろいろなことを教えて貰いました。私があの混沌とした宮廷で生き抜けたのも、最期に出征する前に『逃げろ』と諭してしてくれたのも全部兄上のお陰です」
「そうなんだ。じゃあ、今度落ち着いたらアレクにお墓参りに連れて行って貰えばいい」
「えっ、私がシュトラウス王国に?でも彼の国は結界の向こう側で・・」
「そんなの転移魔法で一瞬だよ。ね、アレク」
アレクは苦笑しながらも頷いた。それを聞いたイスタファンの目は爛々と輝き出した。
「アレク様は大魔法使いだと聞いています。本当だったのですね。お願いです。私を側に置いて魔法を教えて下さい。何でもします。お願いいたします」
まるで拝み倒さんばかりの勢いにアレクは引きつりながらもイスタファンに聞いた。
「何故そこまで魔法を使いたいんだ?」
「アレク様も知っている通り、前の世界では魔法なんてありませんでした。でも、こちらの世界ではそれがある。それってロマンじゃないですか。残念ながら人間は使えないと言われていますけど。けれどそんなことはない。実際、私は獣人の従者に魔法を教えて貰い、少しだけ火が出せるようになりました」
「えっ、イスタファン、火が出せるの?」
「ええ、こんなものですけど」
そう言ってイスタファンは指先に火を出して見せた。
「本当だ。ねえ、アレク、イスタファンに魔法を教えてあげたら?それにこれからセルア国から移民がまた来るし、彼がいてくれる方が何かと便利だし」
アレクは苦笑しながら「お前なあ」と言ってセイガの頭をコツンと突いた。
「分かった、イスタファン、君に魔法の素質が在るのは認めよう。だが、我々は非常に忙しいし、君に割く時間はない。それでもこの国に留まり、我々に協力してくれるのならば折をみて魔法を教えよう」
イスタファンは飛び上がった。そして「私は今日からアレク様の事を師匠と呼ばせて頂きます」と言った。その流れに、アレクはどこかで似たような事があったなとふと思う。それに構わずイスタファンは
「師匠、次回来る予定の民は実は私の民なのです。400名ほどになりますが、彼らのことはよく知っておりますので任せて貰えませんか?それに私は前世でも行政職に就こうと大学で勉強しておりましたし」
「何だ、そうなのか。では今度の移民に関してはイスタファンに一任する」
「やったー、重荷が減った。良かったな、ロン、これでこの春きた移民達に集中できる」
ロンも嬉しそうにコクリと頷いた。
「それでは追々イスタファンの役職も決めていかないといけないな。セオドア様にはどのように話すか」
「ああ、それは大丈夫です。セオドア様に来て頂いたのは、私が師匠の側近になることを後押しして貰う為でしたから」
「そうなのか。しかし、この時期、官吏が一人増えることはありがたい。宜しく頼む、イスタファン」
「こちらこそお願いします」




