4.エル ②
エルが義両親の死に呆然としているうちに、家政婦や護衛、近所のオリーおばさんらの手によって葬儀は粛々と進められていった。
「いつも仲のいい夫婦だとは思っていたんだけど、なにもあの世までも一緒に往くこたあないじゃないか。エル坊が一人になっちまうのに。でも・・・心残りだったろうねえ」
くしゃくしゃになったハンカチで鼻をかみながら涙声でオリーおばさんが話ているのを聞きながらエルは俯いていた。不思議と涙は出てこない。”本当に悲しい時は涙さえ出てこない”とどこかの本に書いてあったなとどこか他人事のように考えながら葬儀が進んでいくのを傍観していた。
無事、埋葬がすみ参列者にお礼を言って帰路についた。傍らには家政婦のマリーと護衛のジョンがいまにも倒れそうなエルを支えながら歩いて帰ってきた。
「エル様、少しお休みになったほうがよろしいのでは。ご両親がご病気になってから不眠不休で看病なされていたのですから。後で暖かいミルクをお持ちします」
家政婦のマリーに促されるままエルは重い足どりで自室に入り、ベッドに突っ伏した。部屋は静かで、冬の午後遅い陽ざしが柔らかく部屋を包んでいる。
突然、喉がしめつけられるような感覚とともに大量の涙があふれ出てきた。なぜ、どうしてと嗚咽とともに繰り返しているうちにいつの間にか眠ってしまったらしい。ふと気がつくと部屋の中は真っ暗だった。
手近にあった魔導灯に灯をつけ鏡をのぞくとそこにはまっ赤に泣きはらした自分の顔が映っていた。でも、なんだかさっきよりは気分がましになった気がした。そういえばマリーがミルクを持ってくると言ってたなと思い階下に下りていったが誰もいない。見回すとキッチンから灯りが漏れていた。
「旦那様達がこんなことになるなんて。これからいったいどうなるんでしょう」メイドのエミリーの暗いこえが聞こえてきた。
「それはエル様が決めることです。成人前とはいえしっかりした方だから悪いようにはなさらないはずです。安心なさい」とマリー。
二人に見つからないよう踵を返すと、エルはそっと自室に戻っていった。もう守られているばかりの子供ではいられないことを噛みしめながら。