399. サイード王子の最期
もうすぐ日付が変ろうとする深夜、アレクはロンとセイガと共に戻って来た。三人(一人と二匹?)共相当に疲れているらしく、執務室に戻るや否やソファーでグッタリした。
「何とか皆を送り出せたね」
「ああ。送り出せたのはいいが、そこからの仕分けがまた大変だ」
「まあ、そこはその街の皆に任せて、僕らは王都に来た人を何とかしなくちゃ」
「取敢えず、お茶にしよう」
そう言ってアレクは茶器と茶菓子を空間から出した。
寛いでいる所にドアがノックされた。「誰?」とセイガが小首を傾げる。アレクがドアを開けると、そこには黒髪に黒瞳の青年が立っていた。
「お初にお目に掛かります。私はセルア国から来たイスタファンと申します。アレキサンダー殿下のお帰りを今か今かと待ちわびておりましたので深夜にも関わらずお尋ねしてしまいました」
「話は聞いている。イスタファン殿、丁度お茶しようとした所だ。中へどうぞ」
イスタファンは執務室の中に入り、ソファでぐでっとしているセイガとロンに目を止めた。ロンもセイガも疲れているのか人間型をとらずオオカミと小竜の姿でいるので、イスタファンはそのまま固まった。
「失礼、お前達、お客さんだ」
「あ、アレキサンダー殿下。お疲れでしょうからそのままで。私はセルア国から来たイスタファンと申します。神狼のセイガ様とロン王子殿下でいらっしゃいますね」
流石にロンは王子だけあってすぐに人間型に戻し挨拶をしたがセイガはそのまま顔を上げただけだった。
「噂には聞いてましたが・・この国に来てからワクワクしっぱなしです。転生して初めて異世界に来たのだなと実感できます」
「君は・・その・・転生者なのか」
「はい。ここに来る前は『日本』というところで大学生をしてました」
セイガの耳がピクっと動き、人間型をとった。
「え、じゃあアレクやウィルと一緒じゃない」
「アレキサンダー殿下もですか。2日前にカレーを食べてそうじゃないかと思っておりました」
「アレクでいいよ。そうか、君もか。どういう風に今まで生きてきたんだ?」
「私は大学の友人とスキー旅行に行った帰りにバスが事故に遭いまして、気付いたらこの世界に生まれていました。カラール帝国第十八王子として生まれました。でもサイード兄上がいなくなって継承争いが酷くなり、母の伝手でセルア王国に亡命したんです。アレクさんはサイード兄上のことをご存知だとエル様から伺いました」
「君はサイード王子の弟御だったのか。そうか・・・。俺達がサイード王子に会った時には、彼は聖ピウス皇国の陰謀で屍食鬼に換えられていた。そして死者を操る力をも得ていたんだ。奴らはそれを使い、シュトラウス王国を乗っ取るつもりだったのだ。けれどサイード王子はそれを良しとはしなかったんだ。彼は奴らに復讐するつもりだったのに違いない。奴らに従う振りをして、肝心なところで裏切って我々に協力してくれた。そして闇魔法で操られている自分を滅してくれとエルに懇願した。彼もまた闇魔法で操られていたんだ。正気を取り戻している内に死にたかったのだろう。エルはかれの願いを聞き入れ、彼の仲間、既に白骨化している数人と共に洞穴に寝かせ浄化した。その洞穴は封印され、王子は仲間と共に安らかに眠っているはずだ」
イスタファンはアレクの話を聞いて、涙を止められなかった。そして心のどこかで彼らしい最後だとも思った。




