397. 王都へ
「申し訳ありません。伯爵閣下は今、王都へ出向いておられます」
それがソーニアの街の執政官の最初の言葉だった。
「それはこちらも重々承知の上、敢えて訪問の時期を春分点に定めて来たのです」
「訪問の時期を春分点に?」
「はい。貴国が移民達をどのようにされるのか見学したいと思いまして」
執政官は困った顔をした。なぜなら今回ソーニアは移民を受け入れるつもりはないからだ。
「申し訳ありませんが、今回ソーニアでは移民の受け入れは行わないことになっております」
「それも分かっております。出来れば王都に向かいたいのですが、非公式の訪問ゆえ、あまり目立ちたくはないのです。こちらに伺ったのは、竜人の皆様にお願いがあって・・」
イスタファンはこれまでの経緯と、馬車や馬での移動は避けたい旨を説明した。執政官は成程と頷いて、
「つまり、竜人達に王都へ運んで貰いたいと」
「厚かましいお願いで恐縮ですがお願いできませんか?」
「分かりました。王都に連絡を取ってみましょう」
という訳で、イスタファン達は王都への移動手段を確保したのだった。
「いやあ、王都までどうするのか悩んでいたがその手があったか」
「何お気楽なことを言っているんですか。空ですよ、空。命の危険があります」
「あの尻の痛さに比べれば、空を飛ぶなんて何てことないさ」
「あーもう、分かりました。明日ははやいですからさっさと寝ますよ」
こうして、伯爵邸に1泊して翌朝、イスタファン達は王都に行くことになった。彼らの目の前には大きな籠がある。2~3人乗れるスペースだ。イスタファン達はその籠に乗り込み出発を待つ。すると周りにいた二人の騎士が変身して大きな竜の姿になった。彼らは一声鳴いて籠を掴み、大空へと舞い上がった。
「わわっ、ほ、本当に飛んでいる」
セオドアはおっかなびっくり籠から顔を出し、下を眺めた。
「しっかり捕まってて下さいよ。これで落ちたら笑い話にもなりませんから」
といいつつ、イスタファンは下を見ようとしない。
「おお、すげえなあ。街がどんどん遠ざかる。しかしこう見ると、国土が相当荒れてるなあ。これは回復するのに大分時間がかかるだろう。ところでイスタファン、お前青い顔してどうした?」
「ちょっと、酔ったみたいです。ううっ」
「うわあ、ちょっと待て。我慢しろ。空の上じゃとうしようもねえ。船の時は大丈夫だったのに。そんな籠の中に蹲ってないで顔を外に出して風にあたってみろ。体ささえてやるから」
セオドアに支えられてイスタファンは籠の外へ顔を出し、風に暫く当たっている内に酔いも収まってきた。すると現金なもので空の旅が殊の外快適に感じられてきた。
「ああ本当に荒れているなあ。牧畜するにしても牧草を生やすことから始めないと。大変だなあ」
そんな彼らを乗せ、籠は昼過ぎには王都へ着いた。迎えに来ていたのは、ヴィルヘルムとウィル、そして聖女だった。
「おじさま~、こっちこっち。あそこに降ろして」
ヴィルヘルムは勢いよく駆け出し、籠を誘導する。籠は指定された宮城の牧草地に着陸した。
竜騎士達は着陸後変身し、ヴィルヘルムに跪く。
「ご苦労様。疲れたでしょ。中に美味しい昼食を用意してあるから食べて休んで」
彼らを労って、セオドアの方を向く。
「改めて、伯父上、ようこそ新生ユークリッド王国へ。今、城の主立った者は移民の受け入れであっちこっちに行ってます。大しておもてなし出来ないのでごめんなさい。そしてこちらが聖女エルです」
セオドアとイスタファンは紹介されたエルを見る。エルの紅い瞳とイスタファンの黒い瞳が一瞬重なり合った。




