394. 新生ユークリッド王国へ ①
静かな熱気がアインステッドの街を包んでいた。そろそろ東の空が紅く色づいて来た頃、一頭の逞しい黒馬に跨がった青年が声を上げた。
「私は新生ユークリッド王国王代理アレキサンダーだ。新生ユークリッド王国は諸君を歓迎する。しかし、新生ユークリッド王国に忠誠を誓えない者はいらない。この橋を渡らずに帰ってくれ。これから各グループ毎に橋を渡り、黄金の道へと入る。但し、自分勝手な行動は慎むように。黄金の道の両側は、皆も知っているように魔の森だ。我々は各グループ毎に結界を張るが、少しでも行動を乱した者は魔の森の餌食となろう。また、一度橋を渡った者は、黄金の道が消えた後では次の秋分点まで帰ることが出来ない。その事を肝に命じ心して橋を渡ってくれ」
移民希望者達は皆で頷き合い、朝焼けの中、目の前にある橋を凝視した。
次第に空が明るくなっていく。誰も一言も発さずに厳粛な空気の中、一筋の朝の燭光が往く手を照らした。
「おお!」皆がどよめく先に、黄金の道が現れた。
「出発!」
アレクはクロックに先導させ、橋を渡った。その後を兵士に守られながら移民達が次々と橋を渡っていく。
この行列の殿にはロンがいる。ロンは誰も自身の張った結界から誰もはみ出す者がいないかを見張っていた。
移民者の中には老人や子供も数多くいる。行列はだんだんに細長くなっていった。
「休憩!」
一刻ほど歩いてアレクは声をあげた。普段、歩き慣れない者は道に腰を落としたりしている。このままではいくらも歩かないうちに日が暮れてしまうだろう。
「ロン、竜人達に言って荷馬車を出来る限り持って来てくれないか。このままだと予定の半分も行かないうちに日が暮れてしまう」
「そうだね。大急ぎで持ってこさせよう」
ロンは心話ですぐに指示を出した。その一方でアレクは荷馬車を持っている商人達と交渉し、荷物を先導している騎士達に持たせ、その代わりに、老人、子供、足の悪い者を優先して乗せるよう手配した。
「出発!」
先程よりはましになったものの、まだ彼らの歩みは遅い。仕方なく、ロンに竜人部隊の進捗状況を聞き、昼休憩を取った。陽は沖天に差し掛かっている。
「このままでは野営地まで着かないな」
「もうすぐ馬車が届くよ。馬車が届いたら、馬車に乗った者から出発したら?馬車の馭者は竜人が勤めるから、現地に着いたら折り返しで持って来て貰えばいいよ」
「そうすれば何とか間に合いそうか。あ、竜人達が来たぞ」
結局、竜人達の協力もあり最後のグループが野営地に向かっていたが、まだかなり遠くにいた。竜人達が最後のグループの所に飛んだ時は、危うく黄金の道が消えかけていた。そのため、竜人達は馬車ごと移民達を持ち上げ飛んだ。馬車は阿鼻叫喚に包まれたが、そんな事は知ったことではない。彼らを魔の森に置き去りにする方が余程恐ろしいのだ。何とか全員、魔の森に飲み込まれずに野営地へ着き、アレク達はホッと息を吐いたのだった。




