38. ズデーデン王立学院 ②
ヨルド川は魔の森の奥深くに端を発し、レウリア帝国の北端をかすめ、シュトラウス王国と魔の森を隔てて流れ、その後大きく東に蛇行し、ズデーデン王国とシュトラウス王国との国境を形成し、ノルン海に至る大河である。
特に国境の町ランカスター辺りでは川幅も広がり、対岸が目視出来ない程であった。
「殿下、やっとランカスターまできましたね」
「皆、ご苦労だったね。僕のわがままに付き合わせてすまない」
「そんな、殿下、結構、皆楽しんでいましたよ」と元気に騎士達は答えるが
付き従う侍従や侍女達は疲労困憊の体であった。それもそうだろう、悪路を何日も馬車に揺られていたのだから。
「ここで3日間休息を取るからゆっくり休んで欲しい」と彼らを労った。
ランカスター領主の館は、川を見渡せる小高い丘の上にあった。
第二王子の一行が街へ入ったと先触れがあり、シュゼイン伯爵は王子一行を出迎えるため館の前に待機した。
シュゼイン伯爵は実は第二王子に会ったことがなかった。シュゼイン伯爵自身が国境の守り手であったことと、第二王子が公式の場にほとんど姿を見せなかったからである。
また、彼の次男が殿下と同い年ということもあり、側近としてズデーデンの王立学院に共に入ることになっていた。
第二王子殿下が『どんなお方か』楽しみでもあった。伯爵自身、ズデーデン王立学院の卒業生ということもあった。王族でしかもズデーデンに留学を希望するなど変わり者に違いない。ともすると、国内の貴族はズデーデンのことを獣人やドワーフのいる野蛮な国などと侮りがちである。
暫くすると、丘の頂上を目指し登ってくる一行がいた。屈強な騎士に守られ、見事な青毛の馬に跨がった幼さを残した少年が目に入った。少年は物珍しそうに辺りをながめている。
『馬車ではなく騎乗してこられるとは』と伯爵は少々驚きをもって、この一行を出迎えた。
「お初にお目にかかります。この地を治めておりますリード・シュゼインと申します。そしてこれが殿下の側近としてズデーデンの王立学院へ参ります息子のレイモンドにございます。道中何ごとも無くなによりでした。ごゆっくり当館にてお過ごしください」
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。アレキサンダー・ケン・シュトラウスです。これから3日間お世話になります」
伯爵は一目見てこの少年が気に入った。王族にありがちな傲慢さは微塵もなく、柔らかい物腰と知性を宿すアイスブルーの瞳が輝いていた。息子をこの方の側近としてズデーデン王立学院に通わせることを心の底から喜んだ。
「では随行の方々もお疲れでしょう。館の者に部屋を案内させますのでお入りください」
あと1話でようやくズデーデン王立学院に到着します。