37. ズデーデン王立学院 ①
ズデーデン王立学院は王都にほど近いキシュという街にある。
雪深いこの国では他の国とは異なり、雪解けの時期に入学式が行われる。つまり王太子より半年早く学院に入学することになった。
俺と共に王都の学院に入学するわけではないのを知って、王太子の俺に対する態度もいくらかはましになった気がした。彼も比べられるのが嫌だったのだろう。
春まだ浅い時期に、最小の供回りをつれて俺は王都を出発した。
俺は浮かれていた。だって浮かれずにはいられないだろう?目覚めてから離宮と王宮以外にでたことがなかったのだから。
俺は興味津々で車窓の風景を眺めていたが、そのうちどうにも尻が痛くて我慢出来なくなった。
「ねえ、キース、馬に乗っちゃだめかな。もうお尻が痛くてたまらないよ」と馬車に併走する騎士に聞いてみた。
キースは俺の護衛騎士を続けている数少ない信頼できる騎士だ。俺の剣の師匠でもある。
「もう少しで休憩場所に入ります。それからなら、クロックに乗ってもかまいませんよ」
「だから馬車は嫌だと言ったんだ。でも宰相が『一国の王子が馬車を使わないでどうするんです。馬車の方が安全でお守りしやすいにきまってます』と言って聞かないんだ」
「まあ、それも殿下を心配してのことですから」と苦笑しながらキースが答える
「自分の身くらい自分で守れるよ」
「確かに殿下の剣技は優秀ですが、まだ実践したご経験はないのですから」
程なく休憩場所に着き、俺は早速クロックに近づいていった。
クロックは青毛の美しい馬だ。生まれた頃から俺がかわいがってやっているせいか俺以外に誰も乗せようとしない。俺が近づくと嬉しそうに鼻面を押しつけてきた。
以前落馬したからか、俺が馬に乗ることに側近達はいい顔をしなかったが、無理を通して乗馬の訓練を続け乗馬もかなりの腕前になると何も言わなくなった。そんなときに生まれたのがこのクロックだ。国王からこの馬はお前にやると言われて。嬉しくて暇があれば会いに行っていた。
「じゃあクロック、よろしく頼む」といって跨がった。
北の大国までは問題なくいっても1ヶ月はかかる道のりである。それに途中には低いながらも険しい山脈や荒野を抜けていかなければならない。途中何度も野営した。
野営のたびに、俺は仲良くなった護衛騎士達にいろいろなことを教わった。
獲物の捕り方や血抜きの方法、皮の剥ぎ方、火のおこし方等、すごく勉強になった。
「殿下は、冒険者にでもなるおつもりですか」と笑いを含んでゴーシュという 騎士が聞いた。
「それもいいかもね」
「王族が獣の皮剥なんてしてたら、宰相あたり卒倒しますよ」といって皆で 一斉に笑った。
ーーー気のいいやつらだ。
「僕はこの方が自分に合ってると思う」
「でしたら、殿下、卒業したらぜひ軍隊に入って俺らの上官になってくださ い。殿下ならばっちりですよ。俺、殿下についていきます」
「俺も」
「俺も」
和気あいあいとしてたき火を囲む食事は楽しかった。
道中何ごともなく過ぎていき、国境の町ランカスターについた。
ここから船に乗り、大河ヨルド川を渡ってズデーデン王国にはいる。