35. スペアの悩み ④
「最近あやつが図書館に籠もっていると聞くがどうなのだ」
「はっ、この国のことを知りたいといろいろな資料をお読みになっていらっしゃるようです」
「なんに対してもまるでやる気をみせなかったあやつがな。そろそろ教育を再開しても問題がないのではないか」
「御意、すぐに準備させます」
ということで、国王の鶴の一声で俺の教育が再開した。俺が目覚めてから1週間が経っていた。
どんな事を学ぶのだろうと戦々恐々としているが案ずるより産むが易し。俺はなんなくこなしている。
どうも転生したときにチート能力を身につけていたようだ。
まず、言語能力。この世界のどの言語でも流暢に使いこなせる。だから外国語の教師達はもう教える事が無いとまで言っている。
そして身体能力。いままでひ弱な第二王子だったのが、どんどん剣の腕を上げている。
その他の勉強も10歳程度の勉強なら問題ない。
だが俺は、調子に乗りすぎていたのかもしれない。
俺が優秀になればなるほどおもしくないと思っている人物がいた。そう、王太子だ。
「なんなのだ、あいつは。意識を失う前は陰気くさくボーっとしていたのに。勉強も武芸もなにもかもが劣っていたのに」
「あの子があなたより優秀だなんて許されることではないわ。王家の金髪とライトブルーを持つあなたこそがこの国の王にふさわしいのに。お腹の中であなたの成長を阻害してきた異分子のくせに」
「母上」
「いいわ、私があの子が調子に乗る前に釘をさしてあげる。あの子はスペア。どうあがいても王太子たるあなたには勝てないのよ」
俺が王妃から呼び出しを受けたのはそれから間もないころだった。
「母上、お呼びと伺い参上いたしました」
「アレキサンダー、そこに座って」
「はい」
「まずは意識が戻ってなによりでした。ところで、最近あなたが勉強や武芸にやる気を見せていると報告がきたわ」
「はい。勉強も武芸もおもしろく夢中でやっています」
「でもね、あなたはスペアなのだからやり過ぎはよくないわ。あくまでも王太子を補佐する身分。王太子をないがしろにすることは許されない事よ」
「ないがしろになどと・・・」
「王太子を立てることを学んで頂戴」
「わかりました」
王妃のもとを退出してから俺はやるせない思いになった。この体の元の宿主は実の母親に疎まれていたのを実感した。俺の他にも弟や妹がいるのにも関わらず、なぜ俺だけ離宮で暮らさなければならないか。意識を失っているのにも関わらず、1度も見舞いに来なかったとも聞いている。
そりゃあ、やる気もなくなるよなあ。まだ10歳なのに実の母親に疎まれて1人だけ隔離され、なにかをしてもあなたはスペアだからと押さえ込まれる。この体の主がさっさとこの体を離れたのもうなずける。
さて、これからどうしようか。俺はスペアとして生きていくなんてごめんだし。