34. スペアの悩み ③
そういえば、この体に宿っていたはずの第二王子の魂はどうしてしまったのだろう。思考も含め綺麗サッパリなくなっている。いくら捜してみても見当たらない。この体が嫌だったのか、環境が嫌だったのか。喜々として成仏したんだろう。
う~ん、前の宿主の記憶が無いって言うのは辛いが俺なりに頑張ってみるしかないか。
翌日、俺は文字が問題なく読める事が分かった。それで王宮の図書館に行ってみたいと侍従に言ったところ馬車を用意してくれた。
「王宮は遠いの?」と近くにいた護衛騎士に尋ねると、「馬車で四半刻ほどかかります」という答えがかえってきた。普通に考えれば30分程だろうか。こちらの単位も調べなければならないな。
図書館に着き俺は呆然とした。俺はかつて通っていた大学の図書館くらいだと高をくくっていたのだがそれを遙かに凌いでいた。小さな子供でしかない俺がどうやって目当ての本をGETすることが出来るのだろう。
キョロキョロと辺りを見回していると、司書とおぼしき人物がやってきて膝をついた。
「お初にお目にかかります、第二王子殿下。私は司書長をしておりますレスター・ヴィンケルと申します。なにかお探しでいらっしゃいますか」
「この国の歴史や地理がわかる本をお願い。あと地図があればそれも」
側で成り行きを見守っていた文官らしき人々からどよめきがおこった。
あれ、おかしな事を言ったかな。まずこの国を知ろうと思ったのだけど。
「かしこまりました。ご用意するのでこちらでお待ちください」といって小部屋に案内した。
なんでも王族専用の閲覧室だそうだ。
待っている間に側にいる騎士に聞いてみた。
「ねえ、時間はどうやって計っているの」
「教会が示す時間を基準にしていますが、我々にはこういった便利な物があります」と言って懐から懐中時計のような物を取り出した。
「あ、懐中時計!」
「ご存じでしたか。これは大元である教会の時計と連動して動くよう魔石がセットされているのです」
「へえ、すごいなあ。でも庶民はそんなのもっていないでしょ。どうやって知るの」
「民の事を気にされるとはご立派です。民は教会が鳴らす鐘の音で時を知ります。日中は夜明けの鐘から1刻毎に鐘が鳴ります。夜間は日没の鐘から2刻毎になり真夜中を過ぎると鳴りません」
「そうなのかあ。じゃあ、今はどのくらいになる?お昼までは?」
騎士は微笑みながら「殿下はそろそろお腹が減っていらしたのではありませんか?そうですね。正午まであと半刻というくらいでしょうか」
それからその騎士は真剣な面持ちで語り出した。
「殿下。私のことはキースとお呼びください。ここだけの話、殿下は変わられました。恐れながら前の殿下は何も興味がなく、自分から何かをするということもなく、ただ大人のいうことを聞いているだけの子供でした。側にいる私達にさえ声をかけることすらしませんでした。ところが事故から目覚めた途端に別人のようにおなりで周囲の者は驚いています」
ーーーーやべえ、別人だと気づかれたかな。
「馬から落ちたショックで、僕の足りないものが埋まったんだよ、きっと」
ーーーーということにしておこう。