33. スペアの悩み ②
驚いた。俺はいまはやりの『転生』したらしい。
あの後、侍医とかいう人が来て俺を診察した。
身体的には特に異常はないが、落馬のショックで精神的に支障があるという診断をくだした。
取り敢えず様子をみるということで、本人にはしたいことをさせるよう指示していた。
俺はかつてよくラノベの転生ものを読んでいた。だが自身が本当に転生するなんて思ってもみなかった。
これは状況をまず整理すべきだな。
「あのう、すいません。どういう状況なんでしょう。ぜんぜん記憶がなくて・・・」
手近にいたメイドに声をかける。
「アレキサンダー様は乗馬のお稽古中に落馬されて意識を失っておられたのです」
ーーふむ、俺の名前はアレキサンダーっていうのか。
「すみませんが水を1杯いただけませんか。喉が渇いてしかたないのです。それとここはどこですか。私は誰でどんな子供なのでしょう」
するとメイドは痛ましい者をみるように
「アレキサンダー様はこの国の第二王子殿下であらせられます。双子のお兄様の王太子殿下の補佐をするべくこの離宮でお勉強中でございました」といって水差しの水をグラスにつぎ渡してくれた。
どやどやと足音がして、いきなりバアーんと扉が開いた。
「アレキサンダー!目を覚ましたのだな」
金髪の大男がズカズカと部屋に入り、いきなり彼を抱きしめた。
「!?」
「アキレウスも心配していたのだぞ」と言い、金髪の男の子を振り返った。
「陛下、どうぞお手柔らかに。アレキサンダー様は目覚めたばかりでございま す」
と、側にいた侍従が止めた。
「おお、そうであったな。すまない」と言ってやっと彼を解放してくれた。
「して、アレキサンダーの具合はどうなのだ」
「侍医によりますと、身体に異常はございませんでした。しかし、落馬の影響で
精神的に、特に記憶に支障が出ているようでございます」
「治るのか」
「侍医によりますと暫く様子を見ることが寛容かと。本人には好きな事をして 頂くようにと」
「あいわかった。暫く様子をみよう。王子教育も中断せよ」
「はっ」と侍従の1人が教育係の連絡に走った。
「アレキサンダー、しっかり養生するのだぞ」と言い置いて王一行は部屋を後にした。
あれが父親か。なんかとんでもない所に転生してきた気がしてきたぞ。ともかく、現状把握だ。先程の金髪の男の子が兄王子なのだろう。名前は、ええっとアキレウスと言っていたな。しまった。王様の名前がわからない。まあ、いやでもそのうち分かるだろう。あと他に兄弟はいるのかな。これもいろいろ確認しなきゃいけないな。
彼が知らなければならないことは果てしなくあるようだった。