329.国創り ⑯ ヴィルヘルム
セルア王国の王宮広間で繰り広げられた騒動から1週間経った。執政官と偽王妃が企てた皇太子に詐称は瞬くの間に国民に広がり偽王妃の実家である侯爵家にも類が及び宰相も辞任に追い込まれた。この騒動で偽王妃に加担した多くの貴族が断罪され、王宮は元の静けさを取り戻しつつあった。さて、正当な王位継承者であるヴィルヘルムだがここで問題が発生した。彼がユークリッド王国の王位を継ぐことが決定しているからである。
「父上、お話があります」
ヴィルヘルムはウィルを伴って王の執務室に入ってきた。
「おや、どうしたヴィルヘルム」
「実は私はユークリッド王国の王位を継ぐ身。セルア王国にて父上の後を継ぐことはかないませぬ」
「なんだ、そんな事で悩んでおったのか?」
「ですが父上・・」
「安心するがよい。余の後は、セオドアが継いでくれる。余の末弟だ」
「セオドア・・伯父上ですか?」
「ああ、そちは知らなんだか。そちが生まれてすぐあいつは商会を立ち上げ外国との交易に勤しんでいる。妾腹でもあるため、そちを脅かさないという奴の配慮だがな。だが、それが幸をそうした。奴はカサンドラの企みに気付くとすぐに隣国へ逃れ、機を見て王位を取り返そうとしてくれていたようじゃ」
「そうだったのですね。安心いたしました」
「だから其の方は、セルア国のことよりユークリッド王国の再建に全力を尽くすがいい。国土が広い分、何倍も難しいことじゃからの」
「それであれば、父上、提案があるのですが」と言ってヴィルヘルムはウィルを見る。
「恐れながら陛下、この国に来ている難民のことですが、彼らを我が国に招致したいのですが、その事について許可を頂きたいのですが」
「何そんな事であれば許可は必要ないだろう。こちらとしても難民を引き受けてくれることは願ってもないこと。それにかなり治安も悪くなっていると聞く。こちらからお願いしたいくらいじゃ」
「では、難民のうち希望者には我が国に来て貰うということで良いですか」
「ああ、勿論、結構だ。でも難民を引き受けるほどの余力があるのか」
「実は、ヴァンパイアの統治時代にかなり国民の数が減りまして人手がありません」
「ああ、そういうことか。こちらとしても可愛い息子の国。助けたいのはやまやまなんだが・・。何しろこちらも騒動と敗戦の後始末をしなくてはならなくてな。許せ」
「そのお言葉だけで十分でございます。この後は良き隣国としてお付き合いいただければ」
「そうだな。共に良き隣国として付き合っていこう。宜しく頼む」
そう言ってセルア王は頭を下げた。