325.国創り ⑫ ヴィルヘルム
「カサンドラ、よくも余を謀りそこな司教と共にこのような化け物を王太子などと祭り上げたな」
セルア国王ジョナスは燃える様な目で王妃を睨み付けた。
「いくら余が精神魔法攻撃を受けたからとはいえ、己に身に覚えがない上、髪も目もまるっきり違う子を余の後継者になどするものか」
「いいえ、いいえ、これは貴方の子です、ジョナス様」
「それに、余は其方を王妃になどした覚えはない。なあ、ザルツ侯爵。余が軟禁されていた間にそこの執政官と娘と共にあることないことでっち上げてこの国を牛耳っていたのは誰あろう其方であったとはな」
「し、知りませぬ。私は宰相として前後不覚にあった王をお助けしたまで」
執政官の後ろに控えていた宰相が叫んだ。
「何を世迷い言を。私はその執政官から常に精神攻撃を受けていたにも関わらずそれを良いことに私を軟禁し、政をいいようにしていたではないか。余はこちらの方のおかで精神攻撃が止み、事の次第を余と同じように監禁状態にあった側近の者から聞いておる」とマルタ司教を見た。
「お陰で、この国は疲弊し、魔力がある者は国外に連れて行かれたと聞いておる」
「何を・・・そう陛下はまたおかしな事を言い始めた。そこの騎士達、陛下をまた塔へお連れしろ」
だが騎士達は誰も動かない。焦った宰相は執政官を見るが、彼も又、マルタ司教のアイレイドで凍り付いたままだ。宰相はこの大広間を逃げだそうと試みる。だが竜騎士達に往く手を阻まれた。
「騎士達、この愚か者とカサンドラを牢へ連れて行け。今までしてきたことを洗いざらい吐いて貰おう」
今度は騎士達は動き、宰相とカサンドラを捕縛し、牢へと連行していった。
「済まなかったな、ヴィルヘルム。帰国したばかりだというに嫌なものを見せた」
国王はヴィルヘルムの方へ向いて謝罪した。
「いいえ。父上は精神攻撃を受けていたんですか?」
「ああ。宰相の側には必ずあの執政官がいて、余が何か言おうとすると彼の赤い目が光り、余は倒れてしまう。それが続いて宰相は私を塔へ軟禁した。それに反対した側近達も牢へ入れていたんだ」
「それはこの者がヴァンパイアで今、私が使っている術と同じものを国王に使っていたのでしょう」
マルタ司教が国王へ告げた。
国王は不安そうにヴィルヘルムの方を見ると
「父上、安心して下さい。彼は私が捕らわれていた時に助け出してくれたのです。彼は信用できます。それと母上は残念なことになりましたが、私はユークリッド国を取り戻しました」
「ユークリッド国を?」
「ええ。聖ピウス皇国を打ち倒したのです。それでいろいろな事を相談しようと思いましてセルア国を訪ねたらこんな事になってしまって」
「それは・・なんと素晴らしい事だ。聞いたか、我が息子ヴィルヘルムが聖ピウス国を討ったそうだ」
「おおっ」
側近達がどよめいた。
「あのう、実際に聖ピウス国を討ったのは聖女様とアレキサンダー王子なのですけれど。僕はその仲間として戦いました」
「それでもだ、凄いことだヴィルヘルム。余は其方を誇りに思う」