322. 国創り ⑨ ロン
ロンは館の上空を旋回し、転移魔法で館の中に入った。
ーーーうわあ、かなり濡れちゃった。
すかさず執事のマルコムがタオルを持って現れる。
「やあ、流石だね、マルコム。ごめんね、床、ビチャビチャだ」
「お帰りなさいませ、ロン様。上空でロン様の姿を見かけたので。それより何かあったのですか?」
「うん、それがね・・」
ロンは里帰りのつもりで帰ったのだが、流れで聖ピウス皇国を討つことになってしまったことを話した。
「それでね、その後、国の中を調べたら・・もう酷いの。何もかも足りなくて。もうすぐ冬でしょ?民が飢えることのないようにしなくちゃいけなくて。で、マルコムにお願いがあるんだけど、館の食料を出来る限り詰め込んで持ち帰りたいんだ。あと、家畜も欲しいってアレクが」
「かしこまりました。すぐにご用意しましょう」
マルコムが淹れてくれたホットミルクを飲んでいたロンが顔を上げた。
「えっと、急ぎじゃなくてもいいからね。僕、竜人国へ報告しに帰るから。また戻って来るからそれまでに用意できてればいいから」
マルコムは「承知致しました」と微笑んだ。
竜人国の王宮では、知らせを今か今かと待っていた。そんな国王と王妃の前に魔方陣が現れ、ロンが姿を現した。
「ロン!」
「父上、母上、ただいまもどりました」
「うむ、怪我はないようだな。無事で良かった。して、どのように相成った」
「聖ピウス皇国を討つことが出来ました。でもその後が大変で。もう暫く、兵達をお借りできますか」
「兵達の中には家族がいて帰りたい者もおろう。こちらから100名竜騎士達を連れていき、向こうと交代させよう」
「ありがとうございます。あと、食料が不足していてそれもお願いしたいのですが」
「分かった。これから冬になるしな。兵士達に運ばせよう。ところで夕飯は食べたか。何だか疲れているようだが」
「まだです。僕もうお腹ペコペコ」
まあ、と言って王妃は笑い「すぐに用意させますからね」と言って侍従を呼んだ。
2日後、タップリ休養を取ったロンは竜王の谷へ向かった。空はこの時期にしては綺麗に晴れていて、ロンは空の旅を楽しんだ。聖ピウス皇国とは違い、黄金の麦補の大地が続いている。収穫の時期なのか、人々が借り入れに勤しんでいて、時々空を飛んでいるロンに気付いたのか、手を振っている。谷の側までくると、王太子が手を振っている。ロンは高度を下げると、王太子の前に降り立った。
「兄上」
降り立つと同時にロンは兄に飛びついた。
「ロン、無事だったか。良かった。お婆様も中で首を長くしてお待ちだ」