320. 国創り ⑦ アレク
シュトラウス王国の王アーサーはその日、珍しく溜息を吐いた。
「陛下、いかかされましたか?」
側についているキースが王の様子を伺う。
「賢者殿がヴィルヘルム殿を連れて行かれてからかれこれ2週間になる。情報を得られぬというのは何とも歯がゆいものだな」
「さようでございますね。結界の向こう側というのは何とも致し方ないので」
「アレキサンダーも無事でおるのか・・」とアーサーが言いかけた所で、執務室の床に魔方陣が現れた。
「おお、アレキサンダー、待っておったぞ。して首尾はどうだ」
「突然に申し訳ありません、父上。我らは首尾良くピウスを討ち、聖ピウス皇国を滅ぼしました」
「それは上々」
「今はユークリッド王国の再建に取りかかっているところです」
「そうか。それでお前の頼みは何だ?」
王のあけすけな問いにアレクは苦笑しながら、ユークリッド王国の現状を話した。
「なんと奴らは民を家畜のように扱っていたのか」
「まあ彼らにとっては人間や獣人など力を付けるための道具でしかありませんでしたし。それに奴らは食料など必要なかったですしね」
「ふむう。思った以上に悪い状況だな」
「ええ。まずは土地の魔力を回復しなければなりませんので竜騎兵に頼んで空から魔力を含んだ魔石の粉を散布して、そして土に馴染むよう耕して貰ってます」
「成程、そうやれば土地の回復は早いか」
「ええ。その後、牧草を撒いて土に栄養を行き渡らせたいと思い・・」
「そうするとお前の必要な物は家畜か」
「ええ。馬や牛、羊に山羊、豚、家禽類、全て足りません」
「分かった。ある程度用意してそちらに送るとしよう」
「助かります。あと、最も深刻なことは人手がないことです。もし、移民を希望する者がいたら引き受けたいのですが」
「国王としては推奨出来ぬが、行きたいという者は引き留めないことにしよう」
「ありがとうございます。次の春分点までにお願いしたいのですが」
「分かった。こちらとしても、懸念事項が減ったことはありがたいことだからな。そういえば、南のカラール帝国で内戦が始まったようだ。知っておったか」
「いいえ」
「恐らく、大量の難民が出るだろう。その者達を引き受けてはどうか」
「そうですね。帰ってから皆と相談します。それでは父上、急ぎますので御前失礼いたします」
アレクの足元に魔方陣が現れ回り始める。
「相変わらず、慌ただしい奴だな」
国王が苦笑した時には、アレクの姿は消えていた。